夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

23019  ケイシー・マクイストン「赤と白とロイヤルブルー」感想

こちらのブログにはBLカテゴリがあるからBLのカテゴリを振っているけれども、この作品はなにかしらのラベリングをするのもちょっといろいろ考えてしまうくらい、マジなやつですよ。

leira3mitz37.hatenablog.com

去年の終わりに上記の作品を読んだのですが、こちらは正体は明かされてないらしいけどアメリカの人気小説家が覆面?で書いたBLで主役の一人が英国の王位継承権第一位の王子様。海外のBLってそんなに読んでないけど結構セックス描写が濃厚なイメージがあってその通りでした。会ってその日にセックスしてたしね。

こちらはこちらで非常に楽しめたのですが、今日読了した「赤と白とロイヤルブルー」は…すごいぞ。また全然別の魅力で光り輝いておりました。

 

2019年goodreadsベスト・ロマンス賞第1位
王子との恋を描く全米ベストセラー!


真実の愛は、ときに奪い取るもの――

アメリカ大統領の息子と英国の王子が恋に落ちたなら……

アメリカ初の女性大統領の長男アレックスは、英国のフィリップ王子のロイヤル・ウエディングへの参列を前に憂鬱だった。フィリップの弟ヘンリーとアレックスは、女性誌に載る回数を競うライバル同士だと言われるが、いつも冷淡なヘンリーがアレックスは苦手だ。その夜の晩餐会でも、冷ややかな態度をとる王子の肩に思わず手をかけた次の瞬間、一緒にウエディング・ケーキの上に倒れ込んでしまった。米英戦争勃発かと世間は大騒ぎになり、二人は全世界に向けて仲のよさをアピールすることになるが……

私としてはね、最近の弊ブログの勢いそのままにBLを読んで楽しむぞーって気持ちで読み始めたんですけども。

 

美しい家族愛と恋愛を見たわ…

 

私は家族に恵まれなかったので(いるにはいるけど、なかなか悪質)家族というものに対してスニーカーに入った小石とか白いTシャツについちゃったカレーの染みみたいな扱いをしていたのだけど、この作品における主人公それぞれにいる姉のあり方を見てると私がこうであれば、また違ったのか…とほんのちょっと後悔したけど、いや、家族のあり方自体がこの作品と随分違うからな、と思い直す。私の家族は私を含めて性格が悪すぎる。この作品に出てくる「家族」はだいたい性格がいい。そんなことを考えることが読んでいる間にありました。

そのくらい、この作品に登場する「姉」、「母」、「父」の存在が素晴らしい。特に姉。きょうだいというのはその人にとって最大の味方であったほうがいいというのを分からされたわ。

 

2度めの大統領選が迫る大統領の息子と英国の女王の直系の孫である王子が恋に落ちたら?を、非常に真面目に丁寧に、わりとリアルに描いています。本当にリアルかどうかはどちらの国もそこまで知らないからなんとも。

 

本当に真面目だし、恋に落ちるまでも丁寧。漫画連載1話でセックスするようなノリと全然違う(最近そういうの読んじゃってるから…挨拶代わりにセックスするから…そういうのも私は好きですよ)。

 

二人が様々な経過を経て恋から確かな愛を実感するようになるのがそれはそれは丁寧に…立場的に非常に緊張感をはらむ関係ながら、二人はただひたすら相手を愛しているだけ、というのが大統領の息子のアレックスの視点で語られているのだけど、丁寧すぎて序盤から恋愛と並行して国際関係的にも政治的にも緊張する展開なので私は何を読んでいるんだっけ?これBLだよね?とあらすじを確認するまであったり。

 

彼らは何度もメールやメッセージアプリ等で連絡の遣り取りをするんだけど(遠距離恋愛ですからね)そういう文章っていままで読んだのは冗長になりがちで私はおざなりにしがちだったのですが、この二人は本当に真摯に知性とウィットを持って愛し合っていくのが伝わってくるのでその熱さにのめり込んで読めました。引用する文章がどれも名文でね、電書でマーキングしまくり。

 

だからこそ、とんでもない事件が起こって二人がそれに翻弄されるのもハラハラするし、ただ同性ってだけの問題(いや、他所の国の王室の人と大統領の息子ってのも立場的にものすごい問題だけど)なのにどうして、と腹立たしくなってくる。

その辺の保守系とリベラルの反応、英国王室の動きなども描かれるので本当に手軽に読めるBLとは言えなくて、重々しくてドラマチック。

 

あらゆる人に読んでもらいたいのか、セックスや肉体的に触れ合う絡みなどはわりと控えめです。海外のBLにしては(いままでなに読んだの、私)。かなり読み進めないとどちらが攻めか受けかわからんくらい。そしてそのいとなみも含めてあらゆる人が読んだらいいのにな、と私は思います。セックスをエンタメとして描写してないちゃんとした恋愛小説なんですよね。エンタメとして振り切っていただいても私はいいですけど、この作品ではさすがに空気読んだな、エンタメ要素。

 

ただ同性ってだけでどうしてこうも彼らは怯えないといけないのか。

その疑問と憤懣を抱えながらも、アレックスの姉のジューンと親友のノーラ、アメリカ大統領である母親、ヘンリー王子*1の母や姉も、偏見という障壁を重く感じながらも守るべきものが理解できていて、本当に大統領がこうだったらなあ…と思わずにいられないね。バイデンがどんな人だか知らんけど。

あまりにも共和党が悪そうに描かれているので(でもこんなもんかもなあ、と思ってしまうほどにイメージが違わない)赤い方の人たちはキレそうだけど、この作品が本国で上梓されたのはトランプ政権の頃なのでどれだけこういう大統領と世の中を望んでいたかが伝わってきますね。

 

BLどうこうより美しい愛情、相手を愛しく思うことをすごく感じられる。もうすぐドラマ版がアマゾンプライムビデオで見られるようになるから、そちらも楽しめたらいいな。

読後感も良いです。読んでよかった。

ドラマ版の主人公たちですね。靴下が可愛い。

 

読む楽しみ、エンタメとしてBLは存在してもいいとは思いますけどね。いまどきBLの対比として?異性間の恋愛もの、若い人対象のものをティーンズラブTLと表現するみたいなんですが、それが存在するならBLだってあってもいい。ただ、BL作品の中では人目を忍ぶ、家族に遠慮する、周りに内緒にする、将来を不安に思うという要素がどうしても付きまとうのでそういうのがもっと緩くなるといいな、と思ってます。不要なスリルなんですよ、ただただ対象が同性ってだけなんだからね。

 

読んでいて思い出したこと。

うちの母は美しくて化粧がかなり若い頃から上手でした。化粧を子どものうちから母の伯父から教えられたそうです。

それを子どもの頃から何度となく聴かされてもおじさんすごいな、くらいでなにも不思議に思わなかったんですが、私にとっての大伯父が亡くなったあとに母から、彼は女装をこっそりするバイセクシュアルだったというのをなんらかのきっかけで教えられました。その大伯父の兄にあたる人は事故で夭折したのですが、彼はゲイだったとか。ようやくそれが言い易い世の中になったからか、状況が許したからか。大伯父の一人がゲイなのは、もう亡くなってたから早い頃から知ってたか。

どちらもきょうだいのように育った母のことをすごくかわいがってくれて大好きだったよというのはよく聞かされていたし、我が家のごく少ない美点として偏見や差別をものすごく嫌うところがあるのはそのあたりからも来てるのかもしれないです。偏見とか差別とか、バカバカしいものね。

 

あ、そういえば!二見書房さん!作中の82.2%部分に変換ミス「味方」が「見方」になってますよーーーーー電書は直しやすいから修正して欲しい。

*1:英国王室といえばジョージとヘンリーとウィリアムだらけとはいえ、この名前どうにかならんかったんか、おまけに母親の名前はキャサリン…ヘンリーが次男で自分を長男のスペアだ、みたいなことを表現したときには苦笑い必至だったわ