夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

22015 22016 ライラ・ペース「ロイヤル・シークレット(1)ロイヤルシークレット」「ロイヤルシークレット(2)ロイヤル・フェイバリット」訳:一瀬麻利  感想

これはジャケ買いするBL

ニュース配信社の記者、ベンジャミンは、英国の次期国王ジェイムス皇太子を取材するためケニアにやってきた。滞在先のホテルの中庭で出会ったのは、あろうことかジェイムスその人だった。雨が上がるまでの時間つぶしに、ベンの部屋のテラスでチェスを始めた二人は、駒を取られるたびに一つ秘密を打ち明ける取り決めをする。それは軽いゲームのはずだった。しかしいつのまにか二人の間に不思議な感覚が通い始め――。世界で一番秘密の恋が、いま始まる。

Kindle版がセールをしていたので、前から気になっていたのを買いましてね。

年末年始は設定がリッチなBLなぞどうであろうと思って読み始めたらすいすい読めちゃって。

新書館といえばウィングスとか昔は(いまは知らん)同人誌で活躍していた美麗な絵師さんがメジャーデビューをする出版社ってイメージだったんですけど(高河ゆん先生、CLAMP先生方などはそうじゃなかったっけ?とりあえず有名になったのはウィングスきっかけだったはず。道原かつみ先生の作品も素晴らしかった)最近は「ヴァンパイアハンターリンカーン」とか、ちょっとおもしろい海外書籍を出版するなあとイメージはありました。

 

こちらは海外BLのレーベルでいいのかな。ライトノベルっぽいレーベルで海外書籍となると日本語の翻訳者次第で質が変わるという心配からなかなか食指が伸びなかったのですが、杞憂でしたね。そういうのを気にしている人、文体に超うるさい私が証明します。大丈夫ですよー!

文体がとても丁寧。そしてもともとの作品がちゃんと知性と気品を備えているんでしょうね。地の文が細やかで美しい。雑さがほとんどない。こうあるべきやなあ…としみじみ感じるものでした。

 

お話は禁断の恋オブ禁断の恋なんですが、私は実はイギリス王室ウォッチャーなので現実の王室のこともあれこれ考えながら設定の違いを気づいたり。

この作品では王室はハノーヴァー朝の王家なんですが、実際はハノーヴァー家から分裂したウィンザー家の王朝なんですね。しきたり等が違ってハノーヴァー朝だと女性の王が許されなかったりします。

パパラッチに追いかけ回されるのは変わりないし住んでいるお城は実際の王室準拠、王様はバッキンガム宮殿、皇太子はクラレンスハウスとか。

英国国教会のシステムはしらんけどもともと王が離婚したくてカトリックから離れて作った教会のシステムだからどうとでもなるのでは(絶対王政じゃないから大変ではあるけど。この辺世界史とってないからざっくりとしか知りません)と思ったけどそのへんの設定は10年前の説明と現在の説明で食い違うので作中の時間の経過で変わったのかしらん。

 

主人公は若きイギリス皇太子と旅先で出会った経済系記者で、やんごとない立場の人がワイルドでセクシーなお相手と秘密の関係を結ぶけれど、お互い深入りはしないという前提でお戯れを楽しむわけですよ。それがお互い抑制を効かせてもやっぱり惹かれ合うわけで。そのへんのじわじわとした接近がそれはそれは丁寧に描かれています。

セックスとかそのへんの描写は結構多いのですが、アマゾンのレビューを読むとこれでも足らないらしい。読者はどれだけ欲しがり屋さんなの??

私は海外産BLはそんなに読んだことがないからこれが過剰だか少ないのかは全然わからないし、好んでセックスシーンを求めているわけではないから(でもデュフフフと変な笑いを浮かべたりはした。でないとBLは読まんよ)割とチャンスを逃さずいろいろ致している彼ら及び作者のサービスの良さ(?)に感心していました。

セックスも濃厚だったけどな…リバなのが嫌という人もいらっしゃいますが、私はどっちもできるならどっちをやってもええやろがいとも思う派閥に属しています。真顔です。

 

1冊では完結しないし、珍しい終わり方をしたのですが(連載漫画で続きが確実にある感じを残して終了。むしろ1冊だったのが半分に割れた感じ?

大人らしく抑制を効かせて快楽を求めていたつもりが、駄目だ駄目だと思った時点でもう駄目だという好例でしたね。素敵なラブストーリーに仕上がっていました。二人の時間がどこを切ってもわりと美しくていい雰囲気。書いた人の知的レベルが高いんでしょうね。どこもかしこもちゃんとしていました。軽く読めるBLというよりちゃんと読めるBLって感じ。イギリスが好きならなおよし。私は日本と同じくらいイギリスが好きだからな…

 

冒頭にも触れましたが装画が美しくないですか?雨模様でチェスを囲み(しかしチェスで恋の駆け引きとかいろいろけしからんところもあってチェスプレイヤー好きとしては不道徳だ!笑と思う部分もありました)皇太子のはだしの足とかとても良くありませんか?こういうの好きだわー

 

この作品では周りの人物も魅力的で、皇太子の親友のレディ・カサンドラや妹のインディゴなど本当に王室周りにいそう。現実の王室はちゃんとしている人とそうでない人の差が激しく、こちらの創作物のほうでは厳格な色が強いかな。ハノーヴァー家のきっついしきたりをざっくり知っている程度ですが、あんな感じ。きらびやかなソーシャライトはそんなに出張っていないのも興味深い。

実際の王室では私はカミラ王妃とキャサリン妃が大好きですけどね。メーガンも好きなんですが、ネトフリのアレは興味ないので見ていません。女優のときと結婚したあたりのキラキラしていたのがよかったなあ。王族はキラキラしていてほしいですね。パパラッチは滅びてほしい。王族の人達が広報を通じてキラキラしたところを見せてくれればそれでいいんですよ。公序良俗に反しない限りは性癖なんぞ知るものですか。

 

そんなキラキラ成分も味わえるのでなかなか充実した作品となっております。

面白かったのですぐに続きを読もう…

 

表紙がもうネタバレじゃないかね

ケニアのホテルで恋に落ちた英国皇太子ジェイムスとニュース記者のベン。一族の前ではじめて本当の自分を明かしたジェイムスは、国民に向けてカミングアウトする。連日のメディアの報道に戸惑いながらもベンはジェイムスとの信頼感を深めてゆくが――!?  世界一秘密の恋、「ロイヤル・シークレット」続篇。

あらすじも1巻の終盤のネタバレなのよね。これは続き物あるあるですね。

2話目になって欲しがり屋の読者の気持ちも分からなくはないくらいにセックスシーンは激減し、しかも内容もかなり薄味になりました。

まあでもさ、付き合ったらそういうものかもしれないじゃん、それより大事なことができる関係性というかさ。

 

もしも皇太子がゲイでカミングアウトしたらというシミュレーションが事細かに描かれているように感じられるほどに社会性に富んだ内容になり、諍いというか痴話喧嘩や家族のいざこざや摩擦を乗り越えながら二人の関係性の練度が上がっていく様をずーーーーーっと割と至近距離で見ているような感覚でした。

 

そんな中で可笑しかったのが王室を捨てて引っ越そうと企む先にマンハッタンが挙がったことですね。確かにマンハッタンでは無関心が期待できるのか…行ったことないからしらんけど。

 

丁寧に潜ませた伏線が思いもよらぬ効果を与えて面白い展開にもなったし、そうなったことも強引ではなかった。

私は別にそんなにセックスしているところを読みたいわけではないからよく出来た作品が読めて大変満足です。いや、王子が最後に髭をはやしたのはそんなに…かしらん。

まあいいか。

 

面白かったです。海外BLの入門にはぴったりかもね、夢があってリッチでゴージャス。

この作者さん、別名義では有名な作家らしいのであとで調べよう。道理でうまいはずだ。ノーラ・ロバーツの別名義ではって話があるけどウィキには載ってないしさすがにまさかと思うわ…南部在住でもないはず。メリーランドって南部とは言えない。あとイタリアとイギリスに住んでいた経験もないはず(おまえノーラのなに知ってんねん)

いかに書くのが上手な大物が書いたBLとはいえ日本人の私が堪能するには翻訳者も上手だったからにつきる。おかげで安心して読めました。