夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

(映画)王家衛監督作品 2046  何回目 感想

劇場で見て、DVDで買って、何回見たかしら。

特にフェイ・ウォンが出てるシーンが大好きでそこだけ選んで見ることがあったり。チャン・ツィイーとのシーンは辛いので飛ばしたり。

欲望の翼」「花様年華」に続いて1960年代を舞台にした作品で、両作品のエピソードを散りばめながら描く。1967年、激動期の香港。かつて愛した人を忘れられず、女たちと刹那的な関係を繰り返す作家チャウは、滞在先のホテルで近未来SF小説「2046」の執筆に取りかかる。小説の登場人物たちはアンドロイドが客室乗務員を務める列車に乗り込み、そこへ行けば失われた愛を見つけることができるという「2046」を目指す。チャウは小説に自らの日常を反映させ、主人公の男に自分自身を投影しながら執筆を進めていく。

日本ではキムタクさんが出演していることで大きな話題になり、それが変にハードルを上げてキムタクさんしか知らん人が見て、王家衛監督の癖のある作り方(台本がその場で作られる)、センスやこれまでの作品の内容、香港がどういう状態なのかとか知らないまっさらな状態だと意味不明なことが多いので評判が微妙だったのですが、私は割りと知ってる側でキムタクさんはおまけくらいの気持ちで見に行って、初っ端から泣き崩れたものです。

 

木に掘った穴に自分の隠しておきたいことを話して泥で埋める、というのは「花様年華」を見ておかないとわからないし、序盤に出てきたルル(ミミ、主演のトニー・レオンの妻で「欲望の翼」ではレスリー・チャンの相手役の踊り子を演じているカリーナ・ラウ)が結婚するはずだった男こそが「欲望の翼」のレスリー・チャンが演じた人であるのがわからないとルル(ミミ)の表情ににじむ喪失感と涙は理解できない。私も一緒に泣いてしまう。

この映画の最後に謎の伊達男としてセリフ無しでトニー・レオンが身支度しているシーンが長々と出るのだけど、それの謎の答えが2046までお預けなの、リアルタイムで映画館で本当にびっくりしたなあ。あの役とこの役が繋がっているのかと。

 

欲望の翼」は公開時には見られなかったんだけど、当時、夏に広島市内でアジア映画のお祭りがあって、こちらの映画がメインで上映されていたのでローカルテレビCMで映画の様子が放映されていて、レスリー・チャンにぶたれるカリーナ・ラウのシーンと倉庫の屋根を逃げるレスリー・チャンアンディ・ラウのシーンがよく出ていたかな。うちの母がそれを見ていつも「本気で叩かれてる…」ってドン引きしてた。頭を上からバチーンと。

 

それもあったのと、「花様年華」も私は初夏くらいに劇場で見て、「恋する惑星」も「天使の涙」も夏に大阪で劇場で見た思い出があるせいか、王家衛監督作品は夏の季語なので夏に見ることが多いです。

暑いなー、王家衛の映画でも見るか!みたいな。舞台が香港とかシンガポールなのでいつも暑そうなのもある。ブエノスアイレスも暑そうだったもんね。グランドマスター満州あたりが舞台のところはめちゃくちゃ寒そうで、吹雪のプラットホームで戦うチャン・ツィイーのあのシーンは寒くて怖かったけど。

 

キムタクさんの演技は、相手が言葉が通じてないのがわかった上でやりにくそうに演じているところがちょいちょい見られるので正直やなあと思って見ています。

通じていようがなかろうがとりあえず放っておけないような目で見つめちゃうトニー・レオンと、(私が勝手に思うに)居心地悪そうなキムタク、どちらも味わえます。

ノローグもキムタクさんは「ハウルの動く城」と同年公開なのにあの素晴らしかった演技が鳴りを潜めている感じがする。硬い。役柄的にもリラックスしてていたらおかしいけれども、緊張感があります。どうあっても乳首を見せないキムタクさん、なぜだろうか…

 

先日見た「英雄」でのチャン・ツィイートニー・レオンとこの作品にはちょっとだけ出るマギー・チャンの組み合わせがどれも「マギー・チャン最強」ってなりがち。同じようにチャイナ服を着てどちらも似合っているのにマギー・チャンの麗しさが強い。花様年華からの麗しさの余韻が強くてほとんど出てないのにそこかしこに存在を感じる。

でもチャン・ツィイーもいいんですよ。伊達男に行為のあとでお金を出される瞬間の目つきとか。一人でいるときの漲るプライドの高さとか。痛々しくて美しいの。そのプライドを捨てたときの無垢で一生懸命な表情との対比も素晴らしい。

 

ぶっちゃけスケベな伊達男の成就しなかった恋からのロスを引きずった女性遍歴を綴ったクリスマス映画、って見方でいいんだけど、そこで手を出さず、恋もあったかも知れないけど親愛のほうが強かったフェイ・ウォン演じるホテルの支配人の長女との関係性が特別に好きでした。魅力的なクズ伊達男の描き方がうまいのよ王家衛

 

序盤に出てくるコン・リーが演じる人はこの人なんだけど、短いのしか持ってない(そして何故か見てない)から気になるのでレンタルしました。

↓こっちを持ってる。

何度も何度も書いているけど張震は綺麗なピエール瀧

 

トニー・レオンフェイ・ウォンは「恋する惑星」で共演していてあのときの二人も好きだったけどこの作品の関係性が最高。フェイ・ウォンが出るところだけベッリーニの「清らかな女神よ」がかかるんですよね。

この関係性があるからこの物語が救われるんですよね。トニー・レオンが演じるクズみの強い伊達男が浮かばれるような。

「恋愛にはタイミングが必要だ」のくだりは当時胸に染みて泣いたものです。

 

結局他の作品とのつながりがわからないと(音楽も大事)なんだったんだって思うんだろうな。一通り知っていたら、完全には理解できなくても(どの作品も完全に理解できるものではないと思う)王家衛と言葉が通じているような気持ちになります。あくまでこちらの解釈だけだけども。

 

はあ、レスリー・チャンがいないのが寂しい。2046年がそう遠くない先に見えてくるけど、どうなるんでしょうね、香港。