夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

エルヴィス(映画)感想

やっぱり劇場に見に行けばよかった。IMAXで見たかった。

人気絶頂で謎の死を遂げたスーパースター、エルヴィス・プレスリー
彼が禁断の音楽“ロック"を生んだライブの日から世界は一変した。
型破りに逆境を打ち破る伝説と、裏側の危ない実話。彼を殺したのは誰なのか?

 

監督のバズ・ラーマンが大好きなのでめちゃくちゃ贔屓目で見るかもだけど(リドスコも好きやで)、実話を映画化、内容は時系列に沿って大体お金の揉め事と浪費と消耗が描かれているという点でたまたま昨日見た「ハウスオブグッチ」とかぶるところもあり、どうせ映画で見せられるならこっちのほうが満足感ずっと高いです。

トム・ハンクスがエルヴィスを生涯に渡って搾取し続けたと言われる「大佐」役で、彼が演じがちな善良な雰囲気などまるでない、太り過ぎでどこにそんな才能があるのかわかんないけど人心掌握に長けて金に貪欲でなんでも自分の手柄にアピールしていくおっさんを見事に演じていてこのおっさんやだー!とずっと嫌気を感じておりました。

見た目がああだからか、きらびやかなエルヴィスの周辺の中にあってめちゃめちゃどす黒く浮いているんですよね。

 

鏡の部屋のシーンや「迷子」というキーワードなど象徴的なものや黒人の街でこそ息がしやすそうなエルヴィスの姿、歌うしかないのに本来やりたいパフォーマンスは否定されて振り回され続けている閉塞感など、説明がなくても苦しさが伝わってくる。

大佐ははっきり言ってエルヴィスのやりたいことの障害であることがほとんどなんだけどエルヴィスの弱いところや優しい甘いところに食いつくのがうまいので、なんやろ、今どき話題の新興宗教とかキャッチセールスとかに騙されやすい人はぜひ見てほしいところがある。

 

昔(というほど昔でもない)は腰を振っただけで保守派がおかんむりだったとか、白人が黒人の歌を唄うのはけしからんし、白人のパフォーマンスを黒人は見に行ってはいけないなどとんでもない差別と分断があったけどエルヴィスはその只中にあってブラックミュージックの影響が色濃くあるのはもっともっと知られたらいいです。アメコミの演出面白かったな。エルヴィスの子どもの頃の子役がオースティン・バトラーにそっくりでよく見つけてきたなって感心しながらそう思ったり。

いま見てると分断具合や保守派の演説など歪で恐ろしいけれども、いまも割とああいう人がいて富裕層だったりして偏った思想で強権振りかざしているのは嫌ねえ…

 

オースティン・バトラーの声や台詞回しはものすごくエルヴィスに寄せてて、演技も素晴らしかった。そういうふうに撮ってたんだろうけど背中からつま先から目が離せないのよね。そのパフォーマンスを満足行くまで楽しむと言うより、エルヴィス・プレスリーという素晴らしいアーティストが消費され消耗していくのを見るのは辛いものもあったけれど、やっぱり魅せるのよ。実際ライブパフォーマンスがどんだけヘトヘトでもすごかったものな…歌の上手さが格別。

 

バズ・ラーマン監督ってゴテゴテしたデコレーションが得意なんだけどそのきらびやかさの濃い影を撮るのもお上手で、花火が大抵象徴的に使わていてそこが切なかったりするの。今回も活かされていて2時間35分とか長すぎるのにずっと見ていられたなあ。

 

テレビディレクター?の役をキラキラした目の人が演じていてこの人見たことあるけど誰だっけ、と思い出したらストレンジャー・シングスのマックスの気持ち悪い兄で「いい役もらったねえ…」と謎の感慨があったというおまけもあり、情報の多さや実際はどうだったのかも(ロバート・ケネディが亡くなったのは6月でクリスマス番組とは季節がぜんぜん違うけどその辺どうなのとか)鑑みながら消化するためにはあと何回か見たい気もする。とにかく目で追いかけるのに一生懸命だったな。

吹替版にもちょっと切り替えたけど、小野大輔さんがエルヴィス役なのピッタリなのよ。よくキャスティングなさいました!

 

終盤でエルヴィスがつぶやく「足のない鳥が飛び続ける」というくだり、王家衛監督の「欲望の翼」でレスリー・チャンも度々つぶやいていたので驚いたのですが、調べたらテネシー・ウィリアムズの戯曲が元ネタなんですね。「欲望の翼」だけでは元ネタがあるとは気づけなかったので長い間好きな作品をさらに知るヒントを得られてありがたかったです。どちらも晩年と言うか死ぬ直前につぶやくのでそういうときにうってつけなのかもしれない。やるせない散文というイメージはあった。かっこつけてるー!とも思ったんだけども(レスリー・チャンはカッコつけているのが最高にかっこいい)

↑元ネタらしい。「ガラスの動物園」と「欲望という名の電車」しか知らんかった…

 

誰もが納得したり熱狂するような内容ではないけど(だって搾取する側のおっさんの自己肯定と頑張ったアピールがうざいし)私にとってはバズ・ラーマン監督の作品は数年に一度のご褒美みたいなところがあるからありがたく頂戴しますよね。ネトフリのシリーズも見よう…

あーもう本当に良かった!大好きです!

 

大好きな映画とつながるのは嬉しい。