24006　コラン・ニエル「悪なき殺人」感想

小島監督のSNSで見て気になった本です。

作者:コラン・ニエル
新潮社

真犯人は、「偶然」だった……⁉
５つの小さな秘密が大きな悲劇を生む、
フランス産サスペンスの逸品。
吹雪の夜、フランスの山間の町でエヴリーヌという女性が殺害された。事件に関係していたのは、人嫌いの農夫ジョゼフ、彼と不倫関係にあったアリス、そしてネット上で知った女に恋い焦がれるアリスの夫ミシェル、デザイナー志望の若い娘マリベという、それぞれに秘密を抱えた４人の男女。各人の視点から描かれる報われない愛への執着の物語は、遠く西アフリカに住む詐欺師の青年の物語と結びつき、不可解な殺人事件の真相を明らかにしていく――。映画化作品が東京国際映画祭で高評を得た、圧巻のフランス産最先端サスペンス。

惹句以外ちゃんと目を通さずに読んだのだけど、惹句も読まないほうがいいみたい。ただただ小島監督を信じておけばよいと思うような。

5人の全然職種や年齢、生き方が違う人達が一人の女性の失踪に大なり小なり絡み、それぞれの視点であくまで自己本位に語られていくので、解説でもチラッとあったように「羅生門」というか「藪の中」の様式っぽくあります。

それぞれが語っていく中でなんだか知っちゃう酪農大国の闇。日本の第一次産業もそうだけど、高齢者は後継者問題で憂い、後継者にあたる若者は重責や孤独に病むのがそれはそれは見事に語られていてどこも先進国と言いながら死に体ではと寒々しい気持ちで真冬の女性の失踪事件の謎を追うことに。

5人が5人とも面白いくらい自己中なのが、人間ってそんなものだろうなとちょっと冷笑的になってしまう。

どのパートもさほど感情移入はしなかったけどツッコミどころとか注目するべきところは多くて、特にアフリカでロマンス詐欺をやる青年アルマンが土俗のまじない師を頼るくだりでおまじないの見返りにやることが、本人は真面目にこなしているけど酷い罰ゲームなんですよね。銀魂で銀さんが悪ノリで近藤さんを騙しそうなやつ。でもアフリカの人にとっては呪術ってものすごく重たいものなのだというのは「動物のお医者さん」や、ちょっと前に読んだアフリカが舞台のミステリ小説でもあったのでそれに振り回されるのも仕方がないみたい。

この作品、他にも動物のお医者さんを思い出すシーンがあったんですよね。別に関連はないけど、あの漫画がいかに偉大か思い知ることは出来ました。自分の人生に本来関係のない出来事が動物のお医者さんのお陰でイメージしやすくなることって他でもありそう…

舞台は酪農、畜産、放牧が盛んなフランスの山麓地帯とパリとアフリカ（仏領ギアナ？）と分かれていて、それこそがこの物語の大きなキモなのかも。一人の富裕層の美しい壮年の女性の失踪が案外壮大な展開を迎えます。

蓋を開けてみれば、って言い方をするとそういうことだったのか、って思うんだけど、一人ひとりの視点で内面描写が濃く語られると、人は後ろめたさから真実とはかけ離れた妄想や解釈をしてしまうという現実でもよく思い当たることによって問題が大きくなってしまうもんなのですよね。それを見事にミステリに仕立てていて本当に面白かった。

語り手が変わることでミステリアスな昼顔っぽかったり、文学的な匂いがする猟奇的な作品になったりとやっぱりおフランスらしさもあるのも良かった。

新潮文庫さん、何年かに一度くらい海外ミステリに注力する時期があるような気がするんですが、ここ数年がそうみたい。昔の作品の発掘とかを含めてかなり良作が出版されています。実際最近注目されている新作は新潮文庫さんが多い。

新潮文庫さんだと価格的にお求めやすいのが魅力。ただし、電子書籍になりにくい。新刊は半年縛りがあるってどこかで読んだことがあるけど、半年経っても海外書籍は電書化しないほうが多いみたい。

いろいろ事情があるんでしょうけど、おかげで私は作業しながら電子書籍を読むことで効率化を計っていたのが阻害されて、もはや読まないか、作業を中断するかという大きな選択を迫られてしまっていたんですよ（大げさですけど）。

でも諦める訳にはいかないと奮起して！1日1時間タイマーかけて読書に集中する時間というのを設けて今回は読みました。だいたい1章（語りて一人分）が1時間で読めます。私は遅いほうだけども。

アルマンは長めだけど、言い回しがチャラいからかすごく急ピッチで読めました。

新潮文庫さんはフォントサイズが大きいからページ数の割に内容のボリュームは多いとは言えないので、さっくり読めます。そして面白かった。この作品は買いですよ。