夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

21004 オインカイン・ブレイスウェイト「マイ・シスター、シリアルキラー」 ネタバレ感想

 あとがき入れても200ページないので手軽に読めるようで…私にはそんなことはなかった

真面目な看護師コレデはうんざりしていた。美貌の妹アヨオラが、今日もまたその彼氏を殺してしまったのだ。これで三人目。コレデは死体を処理するが、次第に警察の捜査が姉妹に迫り……。ナイジェリアの新星が描くブラックユーモアと切なさに満ちたサスペンス

あらすじを読むとちょっとタッチが軽めでヒヤヒヤさせながらも今日もまた死体処理って話かと思ったんですけど(この勝手に憶測して油断するの悪い癖だわ)美しくて厄介な妹を抱える姉の辛さが端々に行き渡ったものだった…

これ、美しくて恐ろしい妹がいない人が読んだら単に切ないし面白いお話だね、で済むんですけど、私には美して恐ろしい妹がいるんですよ…ここまでサイコパスじゃない(はずだ)けど自分を正当化するのが上手で、非常識なことをしでかしても自分のせいじゃないの。

私にはさらに弟もいて、さらに顔が良くて人間性がひどいんですけどね。

私は彼らの尻拭いなんかしないし、「姉としての責任」というものを全うしてませんし、この作品の姉の立場になったらとっとと通報してブタ箱にブチ込んでやりますけどね。家族より法律が大事です。当たり前じゃないですか。

 

でもいろいろ身につまされる内容だし、妹のサイコパスっぷりがハンパない。周りにほとんど味方がいないのも私に似てる。作者はナイジェリア生まれでイギリスの大学を出て英語でこの作品を書いたそうですが、ナイジェリアが父権が絶対的に強く女性の地位が低いのは日本よりひどく感じる上に、日本人の姉も日々ひしひしと感じる「お姉ちゃんでしょ」が更に重たい。

姉である旨味があるなら姉の責任感を全うしてもいいけどさ、旨味ないじゃんね。この作品は本当にその旨味を感じなかった。可哀想。

 

なんでそんなに妹を大切にするのかなあ、と不思議に思いながら最後までつらいつらい言いながら読んだんですが(守る理由もあるにはあった。そこを差し挟むのが絶妙。短い章立てがすごく効いている)この姉もいろいろあってなにが善でなにが悪かの境目が怪しいんですね。そこが宗教観によるものとかその土地の家族観によるものなのか、妹の影響なのかが謎の部分もあるし、(だって妹が同じことをやったら私は嬉々として通報するから…妹はさすがに一線を越えるようなことはしないだろうけど、非人道的なことはやりそう。姉に対するモラハラひでえし)私には相容れない諦念はそこにいるしかないからだったらやるせない。すごく閉塞感を感じる。

いやー、すごく辛かった。もっと長かったら「もうやめてー」って言っていたわ。でも他人事だったら本当に面白く読めると思いますよ。どんどん最悪の事態になっていくし主人公が悪手ばっか選んじゃう。

 

この作品で最もアフリカらしさを感じたのは、熱気の描写だとか登場人物の髪型だとか肌の色じゃなくて、重要な患者の家族が主人公に魔女だ、まじないを使っただろうと罵るシーンでした。

私のアフリカ知識なんてだいたい「動物のお医者さん」からだもん…

 

動物のお医者さん 1 (花とゆめコミックス)