夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

23033 23034 Prapt「The Miracle of Teddy Bear」上 下 感想

初タイBLですよ。

テディベアのタオフーは、あるとき目覚めたら人間の身体になっていた! どうしてこんなことが起こったのかわからず混乱していたけれど、でも持ち主である大好きなナットくんがいれば大丈夫!……のはずが、突然現れた見知らぬ男にナットくんは警戒心をあらわにし、タオフーを警察に連れて行こうとしたり、寝室に入れてくれなくなったりと想定外の困難だらけになってしまった。家にいる「物」たちと力を合わせながら少しずつナットくんの警戒を解き、タオフーはぬいぐるみだった頃よりも深くナットくんを知っていく。ずっと一緒にいるために、タオフーは自分の起源を探し始めて……? これは〝ふつう〟の日々の中に訪れた奇跡と愛の物語――。

作者が「タイのダン・ブラウン」と呼ばれるような人で、そういえば先日読んだ「忘却の河」にもダン・ブラウンが扱われていたな。アジア人、ダン・ブラウンが好きかー?

つまり売れっ子ミステリー作家らしいのですが、そんな人が書いた初のBLだそうです。タイだとダン・ブラウンもBLを書く。いいな!?

 

ダン・ブラウンと評されるだけにちょっと社会的問題にも切り込んでる部分もあったり、人や物が表面上にはない問題を抱えているのを描写するのもしっかりしていたり、情報の開示の仕方が上手だったりと読ませる仕掛けがしっかりしています。

 

面白いのは、タオフーが元々くまのぬいぐるみが何故か人間になっちゃったのは超展開だけど、ナットくんの家にある家財道具や小物が自分たちの意志を持ち、物同士で会話ができるところ。これらが何を意味するのかがちゃんと明かされるらしいのでそりゃあ下巻も気になりますよね。

 

BL要素は即物的な表現を避けながらもちゃんとBLです。

タイがどんな国なのか、国民性も治安もあまり知らず、ただ同性愛に寛容、BLが充実してるってのはどこかしらで教えてもらったような気がする。仏教国なのは知ってたり、アユタヤでは日本人がいてなにかしらの活躍をしたけど悲劇に終わったとか歴史の授業で勉強したなあとか。

植民地になったことがないというのは初めて気づいたかも。

章立てのタイトルが内容に関係があるのかないのか、歴史的事件などに沿ったものなんですよね。私にはわからないんだけど。ナットくんのお母さんが歴史の先生をしていたのでそれとリンクはしているっぽい。

 

このナットくんのお母さんというのが物語の当初はとても魅力があったのですが、魅力の理由というか原因があって、彼女にまつわる様々なエピソードが悲しい。あと左のスリッパさんが気になる。主人公たちのイチャイチャより気にかかるかも知れない…

 

続きの感想もこちらで触れると思います。タイのことを知らなすぎ…カンニングの映画は面白かったけど、あの作品でもお国柄とか社会の雰囲気とかが韓国とも中国とも違うものがあって興味深かったなあ。

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2023/10/10

下巻を読み終わりました。

やられたー…

上巻の感想が壮大な前フリになってしまった。


BLが好きが読む初めてのタイBL、タイは同性愛に寛容な国という印象、そんな呑気でチャラい読者の私を作者とお話がフルボッコですわァ…


この衝撃は同じチャラい気持ちの人に味わってほしい気がするのでなにも言いたくないけれど、ぶっちゃけダン・ブラウンよりずっと好きだしすごい作家だと思うわ。

ダン・ブラウンのラングドンはいつも美人のおねーちゃんとよろしくやるじゃん。いい歳した教授が若いものにはまだ負けん!って勢いでガツガツ元気じゃん(当分読んでないからそういう印象だけ残っちゃって、オカルト成分好きだったのに思い出せない)。


とんでもないクソデカ感情とやや遠くて知ってるようで全然知らない国、タイが抱える社会問題と、寛容になろうとしていても個々の人の気持ちはまたちがう(かもしれない)というのはどの国の人もそうなのか、というのをこれでもかと食らって感情と情報が頭から爆発しそうな気持ちですよ。


私自身は現実のLGBT+Qと創作のBLというのはものすごく線引していて、ゲイの友人がそう感じているようにファンタジーだと思っているのであくまで創作として楽しんでいるんだけど、創作にしても夢のような世界なのがいいように思わない人もいるでしょうね。

今後もチャラく楽しんでいくつもりはあるけど、現実の人たちの喜びや悲しみを他人事と思わずに、より良いものになるように無視はしないつもり。


自分が親からわりと恣意的にジェンダーレスに育てられ(名前もジェンダーレスなんです)女の子らしさをなにも強制されず、性的マイノリティをはじめ様々な偏見や差別を憎む母親の影響を受けたので性嗜好どうこうでその人を判断しないしその人達が傷つくのは腹立たしく思います。でも偏見がないあまりにその人達がなにを怖がっているのかも全然ピンと来てなかったところがあって思慮が足らない部分が未だにあると自覚しています。

だから迂闊なことは言いたくない。でもそれで黙ってるのは偏見を持っているのと変わらないんだなとこの作品のナットくんの思いで改めて気づきました。

 

物語としてとてもおもしろい。様々な伏線がきれいに収まり、気になっていたことにも実は大きな問題提起が絡んでいたと知ってこっちがでかいため息をついてしまった。


BL好きとかミステリ好きとかそういうカテゴリ好きな人以外も読んだらいいよ。素晴らしい作品でした。


作者の人、翻訳者さん、私の目が届くところで作品を勧めてくれた大矢博子さん、出版社さん、どうもありがとうございます。