夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

21010 M・W・クレイヴン「ストーンサークルの殺人」

 あー面白かった。

イギリス、カンブリア州のストーンサークルで次々と焼死体が発見された。マスコミに「イモレーション・マン」と名付けられた犯人は死体を猟奇的に損壊しており、三番目の被害者にはなぜか、不祥事を起こして停職中のNCA(国家犯罪対策庁)の警察官「ワシントン・ポー」の名前と「5」の字が刻み付けられていた。身に覚えのないポーは上司の判断で停職を解かれ、捜査に合流することに。そして新たな死体が発見され……英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールドダガー受賞作。

 やらかした中年と発達障害を匂わせる天才の女性というコンビが出てくるので、「ドラゴン・タトゥーの女」みたいな組み合わせだなと最初はどうかなと思ったのだけど、こちらは関係性が優しかったのでよかった。この二人の関係性は好きです。主人公のポーがいいヤツなんですね。

事件は陰惨でえげつないんだけど、手がかりをたどるための手続き云々がどこの国も大変で確かなものを得るためには裏技や荒技が必要なのも似た感じ。どこも枠組みや縦社会がね…

そんななか、めっちゃコーヒーを消費しながら解決に取り組むのだけど、この物語のいいところは、そのコーヒーですらムダでないところ。ほとんどのエピソードがちゃんと意味があった。

文庫にして600ページ近いけれどダレることなく面白く読み進められました。犯人の動機も、変な趣向の殺人現場も意味があった。しっかりしていたなあ。話の中ではプロファイリングとかで特に言及されなかったけど殺し方を見ると犯人にどういう背景があるのか容易に想像できて、それが間違いがなかったというのも。あと、主人公の過去のやらかしも薄々事実に気づくよね。その辺の語らなさとか、必要なときに語ってくる塩梅が上手。

 

舞台の「カンブリア」がどこなのか当初ピンとこず、私はイギリスが舞台の本をたくさん読んでいるけれどたいていコーンウォールとかロンドンとか、ブライトンとか架空の都市デントンなのでカンブリアもそのへんかなー、カンブリア紀の語源かなーくらいにしか思ってなかったのが「湖水地方」「エジンバラから車で3時間」とかよく出てくるので、結局どこじゃいと調べたら北西部でした。知ったところでイメージは補強されないので、上手な描写が頼りのところがありました。そう、情景描写なども上手なんですよ、この小説。その辺も安心して読める、ベテランで文才のある人の作品のようですがこちらはまだ3作目なんだそうです。

 

満足できる内容の上にこの主人公でシリーズ化しているとのことなので、日本でも続刊があればいいなあ。ポケミスで出してもいいのに文庫で出してくれてありがたいね。

 

充実した気分で読めたなあ。主人公がちょいちょい見るタイプの尖った刑事のようで、あまりくどくはないしもやもやもしない人だった。性的な匂いがしなかったからか。家族の話は唐突な感じもしたけど、あの展開じゃないと他のこともはっきりしなかったのかもしれないね。

 

痛々しい話ではあったけど、読んでいて途中からまあ、あるゲームを思い出してました。

ネタバレになるから隠します。

 

 

 

 動機とかはまったく違うけど、真犯人の立場が近い。ポートピア連続殺人事件もそうか。あれ動機しらんけど。