夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

21014 アンソニー・ホロヴィッツ「その裁きは死」 ネタバレ注意

 読み始めてから今日まで結構経ちました。間にあれやこれやそれらの本が入ってきちゃったので。

いきなりネタバレから始めますから、ここから先を読むのは作品を読んだあとがいいでしょうねえ。

実直さが評判の離婚専門の弁護士が殺害された。裁判の相手方だった人気作家が口走った脅しに似た方法で。現場の壁にはペンキで乱暴に描かれた数字“182”。被害者が殺される直前に残した謎の言葉。脚本を手がけた『刑事フォイル』の撮影に立ち会っていたわたし、アンソニーホロヴィッツは、元刑事の探偵ホーソーンによって、奇妙な事件の捜査にふたたび引きずりこまれて──。年末ミステリランキングを完全制覇した『メインテーマは殺人』に並ぶ、シリーズ第2弾! 驚嘆確実、完全無比の犯人当てミステリ。

 

 私の言いたいことはこの作品で登場人物が既に口にしているのですよ。

 殺人事件の内容が地味(殺されたのが離婚弁護士)、本の最後にいつも自分が殺されかける。

 あくまで主人公が作者本人という体で、天才的な頭脳を持ち、自分の本質をなかなか見せない元刑事の捜査にくっついて自分が推理してみるという構造が話を面白くさせている。女性警部とその部下にたちの悪い意地悪をされるとか昔だったらヒロインの役割だったから、前作もそうだったけどアンソニーホロヴィッツさんは実質ヒロインなんですよ。

 

 事件自体は謎が謎を呼ぶ展開だけど、視点が作家で、目にして耳にしたことを小説仕立てで綴っているからそこに犯人の痕跡はあるのだけど、元刑事のホーソーンがたどり着いている答えにたどり着けない、見誤っているというのをこちらもわかった上で読んでいるところがあります。物語の筋とは関係あるのかないのかわからないような読書会、ホーソーンの私生活、すごい才能を持つ筋ジスの少年との関わりなどホーソーンの方の謎にも首を突っ込みながらも、主人公だけでなく読者のわたしも「もう関わるのやめたらいいのでは…」って思っているところがある。

 ホーソーンと関わっているばかりに警部とその部下と嫌な関係になり、厄介な揉め事に巻き込まれても助けてくれない相棒になるほど大人の関係!と、生易しくなさにハッとして、むしろ新鮮で面白くも思うのだけど、主人公とはもともと関係のない世界のはずだものね。

 

 そっちのほうに気持ちを奪われるので、肝心の事件で数人いる容疑者の人となりとかぶっちゃけどうでもよくなるくらいだったんだけど、こっちはこっちで特異なキャラがでてきて、ここのところ、「中年でコンサバ風のファッションで陽気に振る舞いたい、日本で言えば石○純一げな男性」が出てくる小説によく当たっているので「またか」と思ったり、日本人女性作家が出てきてそのキャラがえらいキツいので興味深かったり。モデルいるのかな…

 事件を知れば知るほど、殺すほどの理由があるのは真犯人たちくらいしか浮かび上がらないけれど、そこを濁してページを稼ぐかのようにオッサン二人の微妙な関係に波風が立ち続けるのが面白い。

 だって昔の「事故」の真相が怪しくて、それが本当に秘密があってそれを知っている片方が被害者の家族にバラしたらどうなる?って考えたら、隠し財産がバレるバレない、プライドが高い女性が要求どおりに離婚できずに屈辱を味わった、ってより殺意を持つものな。そのあたりの、殺人事件の「らしさ」は真っ当でした。お手本のような殺人だから本来ならこんな面白い作品になりえないのに、前述の通り、おっさんが意地悪刑事に虐められて罠にはまったり、それを助けてくれないおっさんとの微妙な関係性とかでいらんスリルを味わうからな…

関係性が兄弟っぽくもあるんですよね。すごく険悪な空気のまま別れても、次に会うときは内心はわだかまりがあるけど相手がケロッとしてるから有耶無耶にしちゃうとか。でもブロマンスってのとはまたちがう。

 

 三部作のつもりで書かれている感じなので謎の多いホーソーンの謎にケリがつくのか、次の殺人事件も殺人事件自体は火サスっぽいのか、そのへんが気になりますが、それより気になるのは、「ヨルガオ殺人事件」でも主人公は瀕死になるか、ですね、こうなると。

 

むしろ…また痛い目に遭ってる!ってツッコミ入れたい。こうなるとアンソニーホロヴィッツのお約束、みたいな。

 

「ヨルガオ殺人事件」のゲラ読みキャンペーンに応募したけど外れたので、いま読んでいる人が羨ましいけど、発売を楽しみにしてます。

 

 

 

今回も面白かったなあ。去年のベストか?と言われたらよくわかんないけど。「ザリガニ」のほうが私は好き。

 

後日。2021/08/11

あれこれ考えていて行き着いたのが、作者=語り手もうすうす気づいているんだろうな。事件の追っかけだけじゃつまんねーから謎を解く男の謎を追いかけたほうが面白くて読者もそっちほうが好きだろって。だって本当に、離婚弁護士が過去に自分が臆病風に吹かれて友達を死なせたことが原因でぶっ殺されたことなんて、そんなにすごい事件じゃないものね…

あと、最後の手紙は緋色の研究で途中引用される手紙のオマージュなのかな、と思ったり。たしか長々しい手紙(モルモン教がどうしたこうしたってやつ)があったよね。緋色の研究は呼んでいるのに、例によって本来はフーダニットもハウダニットも興味ないからそんなに記憶がないという…ホワイダニットが一番好きなんです。