夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

21021 アガサ・クリスティ「おしどり探偵」 #KindlePaperwhite

冒険好きな若夫婦のトミーとタペンスが、国際探偵事務所を開設した。平和で退屈な日々は、続々と持ちこまれる事件でたちまち慌ただしい毎日へと一変する。だが、二人は持ち前の旺盛な好奇心と若さとで、猟犬のごとく事件を追いかける! おしどり探偵が繰りひろげるスリリングな冒険を描いた短篇集。

お風呂で読む短編でなにかないかと探したら面白そうだったのでまたクリスティ。

クリスティ好きの知り合いから「トミーとタペンスのシリーズは面白いですよ」と紹介されたのもあったり。

長編も持っているので追い追い読むかも。

短編集というより連作小説なんでしょうかね。1話目に特に謎解きはありませんでした。序章って感じ。

この主人公カップル、どこかで見たような関係性というか空気感があります。退屈を紛らわせたい妻と彼女の奔放な言い草を適当にあしらう夫。仲が良くて結婚して7年経っても波風が立たない。冗談で浮気の話しをしても夫は浮気するわけがない(自分はわからん)という確信。

 

「アパートの妖精」

序章という感じ。主人公二人の関係性、脇役のアルバートと上司のイケオジ、カーター氏(CV中村正さんって感じ!!)をさらっと紹介して彼らがこれから何をするのかが語られます。

軽い感じが気軽に読めそうながら、夫が諜報機関でデスクワーク、場合によっては海外に派遣される可能性があることや、与えられたミッションが若干きな臭いなどスリルの匂いもしますね。さべあのま先生のイラストが似合いそうな雰囲気もあります。楽しみ。

 

「お茶をどうぞ」

なりすまし国際探偵だけどちゃんと探偵業をしたい妻がうまく暗躍する回。タペンスが本当に憎めない立ち回りで可愛い。24時間以内という大風呂敷でトミーが焦り、タペンスが余裕かますのは読んでいて楽しいです。

 

「桃色真珠紛失事件」

このままタペンスが頑張り続けるのかと思ったら今回はトミーが冴えていたので、このカップル両方ちゃんと見せ場があるのがいいな。事件の内容や顔ぶれがなんだかワクワクする感じでした。郊外の洋館ミステリ!って感じ。あっという間に解決するけどその雰囲気はアリアリでした。さすがアガサ・クリスティ

 

「怪しい来訪者」

本来トミーとタペンスが探偵をやっている理由について読者に忘れさせないようにぶっこんできた感じの、ロシアからの手紙の話。スリルとサスペンスありでトミーとタペンス危うし!という展開ではあったけど、最初の「留守にさせて空き巣に入られるアルカロイドの研究者」はどうなったんだろうと気になりました。あれ置いてけぼり。

 

「キングを出し抜く」

いまでは廃れた感じのある、変な新聞広告がきっかけの事件。とうとう殺人事件が起こりますが、犯人がサスペンスでありがちのことをやっちまいます。さすがのタペンスも度肝を抜かれたと思うけど私だったらもうその家に住むのが嫌だわ…

 

と、ここまで数日間であっという間に読んだのですが、展開が軽妙ながらスリルとサスペンスもちゃんとあり、タイトルが「おしどり探偵」というだけにトミーとタペンスが仲が良くて可愛らしいカップルなのがいいですね。毎回二人の会話のテンポが良くて読むのが楽しい。悲惨な事件も起こるけどなんかニコニコしてまいますね。

 

「婦人失踪事件」

物々しいタイトルから怪しげな展開でどうなることかと思う前に私はオチがわかってしまった…これは私だったらわかります。ええ。分かった人とは2時間位おしゃべりできそう。

 

「目隠しごっこ

話の本筋に戻った展開で遊び半分で探偵ごっこをやっている夫婦に訪れる敵の罠、なんだけどトミーが若干上手でした。盲目の探偵のフリをするのに対してタペンスが情報提供しているのだけど、基本は何年経っても同じなんだなと全然違う側面で面白かったり。翻訳が比較的新しいからか「イボイボ」という表現がざっくり雑で、グダグダなスリルがあって面白かったです。この時代にはこういう軽妙さがある気がする。パーシヴァル・ワイルドの小説とか。

 

「霧の中の男」

トミーの推理が冴えるのだけど、ここでもトミーが無駄にコスプレしていて可笑しい。失敗エピソードも盛り込まれているので、トミーの冴えとバランスが取れていてあくまで「そんなに名探偵でもない」「下駄を履かせているわけではない」というのが描写されているのはいいですね。事件そのものもこれぞミステリという内容でした。

 

「パリパリ屋」

その頃にもあったかどうか知らないおとり捜査を依頼されて夜の街の世界に入り込むトミーとタペンス、でも大抵危険な目に遭うのはトミーで、わりと鮮やかに解決できました。トミーの明るさがいいな。

 

サニングデールの謎」

スリルとサスペンスから一転して安楽椅子探偵もの。「隅の老人」をフィーチャーしていて真似をするトミーが元ネタを知らなくても滑稽で可愛いんですよ。

僅かな情報と自分の記憶を頼りに難事件と思われたものを解き明かす、トミーとタペンスふたりとも冴えてるお話でいままでで一番好きかも。むちゃくちゃ面白かったです。

「隅の老人」は持っているので読みたいのだけど、文庫も完全版でも使われている隅の老人の肖像がちょっと怖いんですよね。完全版は腕がもげそうなくらい分厚くて重たいの。

おしゃれにうるさいタペンスが事件の不自然なところとして、凶器に使われた帽子のピンなんて今どき女性は使わないということを説明する際に、「男ってどうしてそう古臭いの。男が先入観を捨てるには何十年もかかりそう」と言っているけど、何十年どころかそろそろ100年経つかもよタペンス…と教えたくなりました。

 

「死のひそむ家」

郊外の洋館ものの王道のようなミステリ再び。トリックと言うか犯人のやったことが一流のスパイのようだけどオチがキレッキレで好きです。もっと膨らませたら壮大なゴシックロマンミステリになったんじゃないかしら。

 

「鉄壁のアリバイ」

トミーとタペンスが難しいアリバイ崩しに取り掛かるんだけどまさかこれじゃないだろうな?と思ったことがまさに当たって崩れました。

すっげー安直!!!でもそこで思いついたことをタペンスが実証する行動力が大事なのかもしれない。あと、お話の入り口がじれったい依頼人なのが非常に効果的でした。どう語りかけたら読者を引き込めるかちょっとむずかしい題材だもの。うまいなー

 

「牧師の娘」

牧師の娘であるタペンスが同じ牧師の娘に親近感を持ち、彼女の困りごとを解決するお話。冬の寒い夜でも彼らは世のため人のために全力を尽くすのが惚れ惚れする。無駄な描写があまりないので犯人の秘密はすぐに分かっちゃうのですが、謎解き要素も面白かったです。

 

「大使の靴」

変な謎解きを依頼されてトミーの機転が功を奏するちょっとした活劇もの。アルバートがちょいちょい面白く、ひどい活躍を見せました。

 

「16号だった男」

この連作集の集大成。オマージュする相手もポアロなのでセルフパロディなのもいいですね。

ここでもここぞというときにアルバートが活躍します。メンタル面でも役に立つとか若くてちょっとへっぽこなのにいいキャラクターです。

ラストのこの仕事へのケリの付け方もとても素敵で、嬉しい気持ちで読み終わることができました。

 

総括

本当に、面白かった!主人公二人が健康的な陽キャで仲が良いので変な心配なく読まれるし、1920年代に上梓されているのにそんなに古さを感じない。電話も車もあるだけでもう現代と変わらない気がする。

各話当時知られていた探偵ミステリをフィーチャーしているのだけど、私が知っているのがシャーロック・ホームズロジャー・シェリンガムとブラウン神父と隅の老人くらい?しかも彼らもそこまで知ってるわけではないからこの物語を存分に楽しんだとはいえないかもしれないけどそれでも満足できました。まーとにかく主人公たちとアルバートが可愛い。

トミーとタペンスが気に入ったので、彼らのシリーズは全部読みたいですね。最後の作品以外持ってるんじゃないかな?

すごく大好きです。読んで良かった!

 

後日。

アガサ・クリスティーを全て読破した人の書評集を前から持っていたので「おしどり探偵」の項をチェックしたら結構こき下ろされていたのだけど、「お風呂でちょこちょこ読むなら丁度いい」って書かれていてまさに!!って笑ってしまいました。

それでも私はこの小説は好きですけどね。

 

私は単行本版をKindleで持ってますよ!