夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

成田美名子「CIPHER(サイファ)」をご存知ですか(漫画)

 いま各電子書籍サービスで半額なんですよ。好きなら買い時。

 12歳の頃に同じ塾に通っていた他所の学校に行っている友達が貸してくれたときに、「あ、エイリアン通りのオーディションに出ていた俳優さんだ」という発言をしたのが出会い。エイリアン通りの次の作品の主人公になってるとは思わなかった。

と、いうように、先に「エイリアン通り」をちょっと読んでいたのでサイファのことは知っていました。当時、適当に雑誌を貸したりくれたりする貸本屋さんがあって、いわゆるレンタル落ちで「LaLa」などをうちにくれていたので飛び飛びで「エイリアン通り」は読んでいて。

 

友達でお姉ちゃんがいる人達は姉やその友達から情報を仕入れるから私の守備範囲外の漫画に詳しくてそれを齎してくれることもありました。小学生の頃はもっぱら「なかよし」「りぼん」「別冊マーガレット」「別冊少女コミック」を我が家では買っていて、外からもたらされたのが白泉社系と「ぶ〜け」。もともとSF好きだから、清水玲子先生の作品などのSFファンタジーものに強い白泉社系にハマるのはもう運命のようなもの。

 

そんな中、「CIPHER」はSFでもファンタジーでもないけど(いやある意味ファンタジーか。アメリカの人気俳優とあんなことやこんなことがあるNYストーリーとか)NYの描写や思春期でつまずく人間関係のことなどが丁寧に描かれていてもうどっぷりハマりこみました。

すごかったですよー。小中学生の持てる財力でいろんなグッズを買いました。カレンダーとか。カレンダーはアメリカの祭日が書かれていてあれでちょっと詳しくなった。あと、いま考えたら面白いんだけど、NYからCIPHERから手紙が来るというサービスにも応募して、ちゃんとエアメールで日本語訳がついている英文で描かれているイラスト付きの年賀はがきをもらったこともありました。まだ保管してるはず。

 

あらすじとしては、NYの美術系のハイスクールに通うアニスがシンパシーを感じて同級生で全米でも有名な子役あがりの俳優、サイファと友達になるのだけど、ひょんなことで彼が双子の兄弟と1日交代で同一人物になりすまし、学校へ通い、仕事をしているということを知ってしまう。なぜそんなことをするかを教えてもらうために彼らと2週間限定で同居を申し込み、家に泊まり込んで双子と距離を縮めていく、というのが1巻。

 

これを描かれている当時、成田美名子先生は20代ですが、人間関係の機微や大事なことを本当に丁寧に見つめていてそれを表現できるのがすごい、くらもちふさこ先生でも思うけど、今の私よりもずっとずっと成熟している。

子どもの頃から何度となしに読んでいて、1コマ見るだけでどのシーンか思い出すし、セリフやモノローグもかなりの精度で覚えているけれど改めて読んでみると双子のキャラクターの良さや主人公アニスの性格のいいところなどの魅力を再確認できますね。アニスの真っ直ぐでずるいことをやらない、筋を通すためには騙されたフリや嘘を付くことも厭わないところは多分影響を受けています。でも性格はシヴァ:ジェイクが私は近い。陰キャか!ロンリーウルフ的なところがあるのがシヴァ。

 

いま、元の単行本の1巻にあたる部分を読み終わったんですが、同居が終わったあともアニスとの関わりをやめるつもりがないらしいし家にも来てほしいらしい双子がトイレのダストボックス(使用済み生理用ナプキンを捨てる箱)を作ったり生理用ナプキンを買ってストックしておくという描写があるのを昔はサラッと読んでいたけど今になると、17歳とか18歳の健康的な男の子がやることじゃねーーーー!!とざわついてはおります。こういうものを作ることに関しては伏線があるので、無理な流れではないけれど。

 

サイファとシヴァにはちゃんとした生年月日があるので彼らが50歳を超えたときには非常に感慨深く、2月4日を迎えたものです(本当に好きだから生年月日が言える)

最初は私より年上だったのにねえ…漫画ではピッチピチの17歳とか18歳。

私だけじゃないでしょうけど、ある程度話が進むとどっちがサイファでどっちがシヴァか、わかるようになるんですよ。

 

この漫画のすごいところの一つに、本当にNYに生きている人を描いているから、日本との違いを全然描写しないの。だから作中で2歳違うアニスが双子と同じクラスを受けるとか特に学年の違いを感じさせないことの不思議さがわからず、年齢が違うことに気づいたのが随分先だったり。双子が俳優としてどんな立ち位置なのかもぼんやりにしかわからないけれど、勝手に「リヴァー・フェニックス未満」と思っていました。

もう一つすごいところは、背景描写の精密さ。NYの風景も後々テレビで見ていたら「CIPHERで見た!」ってところがすぐにわかるくらいだし、家の内装もNYのフラットや郊外の家の内装そのままなんですよね。ちゃんと取材されている。

この漫画で相当鍛えられているから、背景が雑な顔マンガが許せない人になってしまうという…でもCIPHERも終盤に先生が体調を崩されたりスケジュールが間に合わないとかで本誌で背景が死んだ瞬間とかありましたけどね。こういう余計なことも覚えています。

 

もちろんここからの話の流れもよく知っているのですが、読み直すと再発見とかあるだろうな。数年前に読み返したときは、4巻あたりのサイファの心の機微にこっちがキュンキュンするわ!と床の上を転げ回りましたが、いまは7巻以降の鬱展開とか人間関係にぐっとくるんだろうなあ。愛蔵版では…とにかく真ん中??

一緒に続編に当たる「ALEXANDRITE」も文庫版の電子書籍が半額だったので買いました。あれ、なぜかラストの試合が終わったところをなんでもないときに思い出します。

 NY、コロンビア大学の学生たちの日々の営みがこれまた丁寧に描かれていて、とても贅沢な作品だと思います。いまどきの少女漫画にはそんなにないっしょ。しらんけど。

 

いまの漫画(特に少女漫画にカテゴライズされるもの)はそんなに読まないから絵のふるさとかわかんないけど、一つの歴史が刻まれていると云っても過言じゃないと思うので、電子書籍でも買ってよかった。愛蔵版はカラー原稿も再現されているし。毎月カラー原稿があることもあったとかすごいな。

1巻でハマって、お小遣いを集めたり親を説得したりして既刊の5巻まで買うの楽しくて嬉しかったなー。4巻がどこに行ってもなかったり。その合間に妹が3巻にサンリオのシールを貼りやがって未だに貼られたままです。

 

愛蔵版と単行本の話がごっちゃになっていますね。

一番好きな表紙はロココ調の衣装を着た泥だらけのアニスが寝ているのを同じ時代のコスプレをしているサイファが見ているやつ。あれもフルカラーで見られるのは嬉しい!

 

単行本で2巻のパートを読んでいて思い出したのが、60色の色鉛筆に憧れて持てる財力で買っちゃったこと。これは弟が真似して同じものを買ったので2組いま持っている状態。

当時キルトも作りたかったんだけど、上手に作られなかったな…いまなら作られるのかしらん。バスキューブとか本当にいろいろ影響を受けていて、当時の単純さと持てる財力にいま振り返って呆れているところです。

 

単行本で7巻、愛蔵版で4巻を読んでいるのだけどこのあたり本当、どうしようもないくらい鬱展開だなあ。当時本誌も買っていたんだけど、突然起こる悲劇にちょっとしばらく何が起こったのかわからなくて信じられなかったな。サイファがしゃーなしで云ってしまうしょーもない嘘が本当にしょーもなくてリアルタイムで読んだときから今に至るまで「まじでしょーもない」と思ってしまう。仕方がなかったとはいえ、もっとマシな嘘をつけなかったのかと。この辺子どもというか、未成年なのよね。様々なことが後悔につながっていくのが悲しい。

二人が離ればなれになってそこで出会う親友が素晴らしいのが救いだけど、私は未だにディーナのことは納得してないかもなあ。でも今回の付録でシヴァが死ぬかもしれなかったって話を読んで死ななくてよかったと思ったのでした。それはマジで勘弁…レヴァインが出る展開でよかった。

 

物語と関係ないけど服の質感の表現がすごく上手で、青森と同じ緯度のNYで着られるコートに重量感があり、いい服を着ている設定だから上等に見えるのが好きです。未だに憧れる。人の顔はそこまで上手じゃないと思ってしまうけど、等身の描き方、服の動きとか漫画のお手本なので漫画が描きたい人は勉強になりそう。

 

いまになって気づいたんですけど、サイファはLAに行ってから買った車がえらく上等。フォルクスワーゲン・カルマンギアとみた。クラシックカー好きとか趣味がいい。さすが物に惚れ込むタイプ…私も乗りたい。

何回も読んでいるけれど、様々な知識を得てまた読み返すと意外なところで意外な発見があるもので、ビッグママが唄う黒人霊歌の訳が南條竹則さんだと知ったのが嬉しかったり、だんだん治安が良くなっていったNYもちょっと知ってるからその変遷がこの漫画でもわかったり。

ツインタワーの存在が悲しかったり。

 

読み終わってしまった…やっぱり名作は名作なのね、何年経っても。

人はいつでもやり直せる、強くなりたいなど様々な成長するためのキーワードが盛り込まれていて、中年になったいまでもいろいろ刺さるし、新しい気持ちになれる。

で、成田美名子先生の漫画を読んでいるといつもなんですが、暮らしのクオリティを上げたいって思ってしまう。丁寧に暮らしている感じが伺える。学生が適切に勉強しているし。そういうところも好き。私、恋愛に振り切って勉強している感じがしない漫画が大嫌いで。

その点この漫画は特にシヴァとレヴァインとハルが学生らしくちゃんと勉強していて、アニスはバイトでキルトを作っていてと他のこともちゃんとしているを見ると私もいろいろ頑張りたくなる。

本筋じゃないところでもちゃんと生きている感じがして好きです。

話の本筋は割とトーンが暗いけど、本来が人間関係を大事にしながら楽しいお話を書く作家さんだから面白いところもいろいろあるのもいい。

 

やっぱり30年とか経っても電子書籍になって根強くファンがいて、私も同世代の人とかとはこの漫画の話は確実にできるだけに、いい作品なんですね。

続きのALEXANDRITEは楽しいことが中心で、ますます生きている感じが強いのでこのまま読みます。このシリーズで一番好きなのはサイファですけど、レヴァインとアンブローシアもすごくいいんですよね。途中で発生する霊障への対処も好きだったし、スカベンジャーハントも楽しかった。セットで読むといいですよ。

そういえばニナ・リッチの「フルール・ド・フルール」を父に香港で買わせたのも思い出した。おまえどんだけこの作品に影響受けてるんや…