邦題があかんわー
しかしこの作品は何も知らずに読むのが一番おもしろいので、読んだことがないならこちらの感想は読まずに作品を読んでほしいですね。
異様な手口で惨殺された二人の女。カミーユ・ヴェルーヴェン警部は部下たちと捜査を開始するが、やがて第二の事件が発生。カミーユは事件の恐るべき共通点を発見する……。ベストセラー『その女アレックス』の著者が放つ衝撃作。あまりに悪意に満ちた犯罪計画――あなたも犯人の悪意から逃れられない。
今日読み終わった「チェスナットマン」と並行して読んでいて、たまたま凶悪猟奇殺人ものが続いたんですが、この手の物語には王道的な筋があるんだなあと並行すると余計にわかるのでしたり顔で読んでいたんですよ。
本当にたまたま被ったんですよね。ピエール・ルメートルがこの度断筆というか作家引退?作を出したとかでちょっと気になり(ミステリを書くのを辞めるのであって作家を辞めるわけではない、らしい)「天国でまた会おう」がゴンクール賞を受賞してるのを改めて知り、読むならまず「悲しみのイレーヌ」からだろうというのを自分の過去の日記で読み取って手に取ったという流れ。
王道的な筋というのは、猟奇的な快楽殺人が起こり、それに腕利きの刑事が捜査するが、マスコミや上司により阻害されているうちに次の殺人が起こる。犯人は周到で常に先を行く。マスコミにリークする内部の裏切りがある。犯人は姿を見せないがなんだかドヤ顔、など。
続けて読んだ二作品に同じような展開が続いたのでどっちがどっちかわからなくなるのを登場人物の名前のお国の独自性でなんとか食い止めておりました。
こちらは邦題が原題と全然違っていて、タイトルのイレーヌが主人公カミーユの妻で現在臨月が近い妊娠中であることを知るともう嫌な予感しかしないので、タイトルで薄々展開を予想しちゃうようなのはつけてほしくなかったなあと思いながら読んでました。
「チェスナットマン」と違って上司が捜査の邪魔になるのが最小限に抑えられているのは主人公本人が中間管理職だから、だろうなとか、物語の進み具合、残りのページの数などを見ながらどういうふうに謎が明かされるのか、私が危惧したことはどういう結果になるんだろうかと長年ミステリを読んできて本来あるべき楽しみ方より物語の作り方の観点から読んでいたのです。
作中で起こる殺人が、実在する猟奇殺人が出てくるミステリを再現しているので同じく文春文庫で出ている「ブラック・ダリア」や私は持っていたもののあまりの胸糞の悪い評判を聞いて手放してしまった「アメリカン・サイコ」、持ってる「ロセアンナ」などが引用されていて、ちょっとした販促になってるなーと茶化したりもあったりね。
それが。
まあ。
びっくりよ。
そうかそうか、ピエール・ルメートルはこういうことをやる作家なんだー…
ってすごい脱力感でぶっ倒れそうになりました。
シリーズ作であり当時のミステリランキングを盛り上げた「その女アレックス」は当時から所有しているのですぐにでも読めるし、多分近いうちに読むでしょう。
本当、何を読まされたんやって気分なんですよ。私、主人公カミーユがどういう人なのかあまり知らんまま「その女アレックス」を読むことになるんやなあ…脇が甘いおっさんというのは間違いないみたいだけど。
王道の読書体験を持つ人こそ読めばいいです。結果的にすごい読書体験になりました。
久々にやられたー
別に白旗を挙げるとか敗北感とかじゃないです。でも気持ちよくはないですね。
次も刑事が主人公でたぶん猟奇的な殺人が主軸になるだろうけど、たぶん心温まる要素もある作品を読みたいと思います。