初デンマークミステリ。
コペンハーゲンで若い母親を狙った凄惨な連続殺人事件が発生。
被害者は身体の一部を生きたまま切断され、
現場には栗で作った小さな人形“チェスナットマン”が残されていた。
人形に付着していた指紋が1年前に誘拐、殺害された少女のものと知った
重大犯罪課の刑事トゥリーンとヘスは、服役中の犯人と少女の母親である
政治家の周辺を調べ始めるが、捜査が混迷を極めるなか新たな殺人が起き――。
北欧ミステリって硬質でシビアで女性がひどい目に遭うイメージがありますが、今回もひどい目に遭うのでメンタルが丈夫なときに読むのをおすすめします。
主人公トゥリーンとヘスはそれぞれの理由で重大犯罪課に居着く気はなく、ヘスに至ってはもともとユーロポールの刑事で左遷という形で元いたデンマークの警察に戻ってきたという立場。でもユーロポールにいただけに腕はあることになっています。
初っ端に起こった悲惨な事件にトゥリーンはとっとと片付けて畑違いの希望部署に異動するんじゃいという意気込みで臨み、突然バディを組むことになったヘスは寡黙で事件に前のめりではないが様子を伺っている…というのを読んで、私はなるほど凄腕の俯瞰的で冷めた目で見ているのかな…?と思ったら。
元の職場に戻りたくて心に余裕がない上に悲惨な事件にメンタルをやられていたという…この展開笑ったわ。
作者さんがもともとデンマークの人気ミステリドラマの脚本家だそうで、そのせいか章立てが細かくて129もあり、場面転換や主観となる登場人物もその都度変わることがほとんどです。その分、一つ一つのエピソードが簡潔でぐいっと引き込んで、場面転換!とテンポがいい。
あらすじに「新たな殺人がおき」とある通り、連続殺人モノで新たに殺されるに当たっては生々しくサスペンスフルな描写もありこちらも緊張を強いられ、スリルも満点。
しかし二人の刑事にとって狡猾で周到な真犯人もさることながら、足を引っ張るのが正常性バイアスがかかって保身と高慢さでいっぱいの上司やトゥリーンが女性でデキるタイプの刑事ってだけで疎むミソジニーめいた同僚で、彼らの動きに事件の真相へ至る線を阻害されながら、ときに心折られながら真相に辿り着こうとする二人の関係性の変化や本当にちゃんと仕事をするトゥリーンの姿勢には惹きつけられました。
真犯人の動機や絶対にやらなかったことなどに思うところはあるものの、被害者の視点の展開があることによって被害者の心情などもわかることにより真犯人の正当性が上がらないのはいいところだと思う。万能感のある真犯人だけど、すべてが分かっているわけではないのよね。
トゥリーンの容赦ない言動に読者としても辟易しておっかないイメージがありましたが、ヘスの虚無感のある性格と対比的でいいコンビになったと思います。
これ一作限りかもしれないけれどそのへんは印象に残りました。
メンタルが丈夫なときだったらボリュームがあって読み応えのあるミステリです。
つまり私のメンタルがいま丈夫。
実は並行して同じような凶悪殺人事件を追う刑事モノを読んでいるのですが、共通点が多めです。うざい上司と同僚がこっちはいたな、くらい。
初めてのデンマークの小説でしたが、固有名詞や地名、人名などそこまで困りませんでした。パキスタンの移民が多いのが説明なくても伝わってきました。瀬戸内海育ちなのでチボリ公園には馴染みがあったり。
なんで岡山にチボリだったんだろうな…?何回か行きました。
いちばん馴染みがなかったのがタイトルにもなっている「チェスナットマン」ですね。装画に使われていますが、栗から作る人形で子どもが作ってガレージセールとかで小遣い稼ぎに売ることにも使われるそうですが…装画を見て、作中の描写を見て、ただただ怖い。
日本でもどんぐりを使って人形とか駒とか作りますが、売るあたりがより民芸品に近いのかな。
あまり国の違いと文化の違いに悩まされる感じがなく、普遍的に読ませるタイプのミステリなので、初めての海外ミステリでも(残酷表現OKなら)いいかもしれません。ぜひどうぞ。