夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

24029 デイヴィッド・グラン「花殺し月の殺人」または「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」

マーティン・スコセッシ監督作品の原作です。

【映画化原作】マーティン・スコセッシ監督×レオナルド・ディカプリオロバート・デ・ニーロジェシー・プレモンスら出演【2023年10月20日(金)全国の映画館で公開/Apple TV+で配信予定】1920年代、禁酒法時代のアメリカ南部オクラホマ州。先住民オセージ族が「花殺し月の頃」と呼ぶ五月に立て続けに起きた二件の殺人。それは、オセージ族と関係者二十数人が相次いで不審死を遂げる連続怪死事件の幕開けに過ぎなかった――。私立探偵や地元当局が決定的な容疑者を絞れず手をこまねくなか、のちのFBI長官J・エドガー・フーヴァーは、特別捜査官トム・ホワイトに命じて大がかりな捜査を始めるが、解明は困難を極める。部族の土地から出る石油の受益権のおかげで巨額の富を保有するようになったオセージ族を取り巻く、石油利権と人種差別が絡みあった巨大な陰謀の真相とは? 米国史の最暗部に迫り、ニューヨーク・タイムズ他主要メディアで絶賛された犯罪ノンフィクション。『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』として刊行された作品を文庫化・改題。

 

私は単行本で読んだので、改題前の方で馴染んじゃった。カタカナのタイトルって文字数制限あるSNSでの広報に向いてないのにねえ。元のタイトルはノンフィクションに思えない趣あるタイトルだけど、発祥がネイティブアメリカンの言葉だと思えば納得。

 

私は浅学で見識も浅いから、迫害されていたネイティブアメリカンに富豪の部族がいたなんてこの作品で初めて知ったのだけど、迫害されてたまたま追いやられた場所に石油がザクザク湧いたというととても運が良い、スカッとする事態だと思ったのだけど、読み進めるとそれが彼らにさらなる悲劇を齎すことになるという…

その利益を得るに至ったのには単なる運だけじゃなく、オセージ族の族長にとても賢い人がいたというのもあったのだけど、根底に先住民差別があって、法律を作るのも支配するのも白人社会だからどれだけ財産を得ても彼らは苦しみから逃れることはなかった、というものでした。

 

本は3つのパートに分かれていて、オセージ族が富豪になっていった過程、彼らを縛る様々な人権のない法律、解決されない殺人事件、特に主軸となるモリーの姉妹と母たちの殺害について時代背景や当時の警察機構の説明を交えながら語るパート、腐敗した警察や裁判制度にテコ入れするためにFBIの生みの親J・エドガー・フーヴァーの肝いりで投入されたトム・ホワイト捜査官の捜査のパートと、当時では判明されなかった全容を明らかにする現代の筆者が主眼となるパートでオセージ族を襲った悲劇について語られておりました。

 

正直ちょっと蛇足に感じるほど登場人物の背景の描写が丁寧なんだけど、最初のパートとトム・ホワイト捜査官がまともな捜査をすることになって判明したことの差異がはっきりするに従ってこれは丁寧に描かざるを得なかったんだなあと納得はしました。

トム・ホワイト捜査官が出るまでずっとジリジリしてましたけどね、汚職と腐敗だらけで。

だいたい、生活しにくくなるからって警察機構が整備されるのを良しとしなかったアメリカ市民の自浄する気のなさが恐ろしい。そしてネイティブアメリカンを蛮族扱いした白人こそ野蛮人のようだった。実際ネイティブアメリカンの族長もそう表現したみたいだけど。

 

映画版がえらく長いので見る気にならず、原作のこちらを読んだのですがどっちにしろ時間がかかりました。ひどい人間模様をずーっと見せつけられていたなあ。銃があってもなくてもアメリカはヤバい。暴力エグい。

 

そういう演出がしたかったんだろうけど、1部と2部で数人の人の見え方がガラッと変わったのは面白かったなあ。実話だからすごく面白がるわけにはいかない気もしたけど。形容的な表現は実際の供述などを底本にしたらしく、そこをきちんと明らかにしていたのはノンフィクションとして信頼できると

 

ディカプはトム・ホワイト捜査官を演じたのかと思ったらモリーの夫役だったのか…ヘイルをデ・ニーロが演じるならそこは絶対おもしろいと思う。

しかし上映時間があまりにも長いのであった…

そしてディカプが演じたことがあるフーヴァーは出ない模様。

 

Wikipediaではそこまで知ることがなかったであろうこの事件について知ることができてよかった。さまざまな教訓がそこにあるけど、今どきも変わらないところもある。なんとも腹立たしいしもやもやが残るお話でありました。みんな知ったほうがいいよ。