夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

22014 クリス・ウィタカー 「われら闇より天を見る」 感想(文末に読んだ人しかわからないネタバレあり)

今年のミステリベスト1を取りまくっただけあるわ

「それが、ここに流れてるあたしたちの血。あたしたちは無法者なの」 アメリカ、カリフォルニア州。海沿いの町ケープ・ヘイヴン。30年前にひとりの少女命を落とした事件は、いまなお町に暗い影を落としている。自称無法者の少女ダッチェスは、30年前の事件から立ち直れずにいる母親と、まだ幼い弟とともに世の理不尽に抗いながら懸命に日々を送っていた。町の警察署長ウォークは、かつての事件で親友のヴィンセントが逮捕されるに至った証言をいまだに悔いており、過去に囚われたまま生きていた。彼らの町に刑期を終えたヴィンセントが帰ってくる。彼の帰還はかりそめの平穏を乱し、ダッチェスとウォークを巻き込んでいく。そして、新たな悲劇が……。苛烈な運命に翻弄されながらも、 彼女たちがたどり着いたあまりにも哀しい真相とは――?人生の闇の中に差す一条の光を描いた英国推理作家協会賞最優秀長篇賞受賞作。解説:川出正樹

イギリス人の作家さんがアメリカを舞台に書いた理由はこれやろうなーと思う部分があるのですが、それは私の推測であって事実としては作者はアメリカのミステリ作家のファンなのだそうです。逆はよく聞くけど(アメリカ人作家がクリスティやドイルの影響を受けるとか)今の時代だとそういう作家がいてもおかしくはない。他のイギリス人の作家にもアメリカのミステリの影響を感じるものがあったりするし。いい時代だねー。

 

身持ちの悪い母親に苛立ちつつも憎めない娘が他所の平凡な母親に憧れるという部分が個人的に身につまされて「わかる、わかるよダッチェス…!」と何度かつぶやきながら登場人物に降りかかるそれぞれの問題や悲劇、浮かび上がる事実などダレることなく畳み掛けられて1日ですべてを読み終わりました。

タイトルの「われら闇より天を見る」の「われら」が誰なのか。孤独に弟を守り続けようとするダッチェスだけじゃないところが重要ですね。

様々な事件や事実が読者の前で明らかになるたびに、何が本当で何が悪いのかすごく考えさせられるし、やりきれないものも感じるのですが、それでもメンタルに来るから読むのをやめようとは思わなかったな…先週は1冊挫折したけれども。

 

私達の常勝アンソニーホロヴィッツを抑えてミステリランキングの1位を席巻した作品ですが、いろいろ思うところはあるけれど読む価値は十分あります。面白かったというには身につまされて過去のあれやこれやを思い巡らされた分言い切れない部分もあるけれど、よく出来ていたなと。フーダニットとして容疑者が目の前にいろいろぶら下がっているのですが、それを見定めようとするもうまいこと揺さぶってくるんですよね。

そして主人公のダッチェスの危うさがずーっとハラハラさせるの。なにが無法者だって腹が立つ部分もあるんですが、そう思わないとやっていけなかったのもわかるんですよ。ずっと救われてほしいと願っていました。

 

 

 

ここから読んだ人にしかわからないネタバレなんですが。

悪いのはアメリカの銃社会で、それがあるからこそアメリカが舞台になったんじゃないかな。

銃が生活に浸透しすぎ。日本ではちょっと起こらないのでは…と思い至ったときに「逆転裁判」が頭をかすめました。

真実は違うけれど、ちょっと「逆転裁判」のある事件に似てるところがありましたね。

様々な犠牲のあとでのラストがわりとスッキリはしていたのですが、これでええの?って思う部分はありましたね。

そのあたりは読書会でいい議論のネタになりそうです。私は懐疑的です。

 

あとダッチェスの仕草の描写であまりに中指を突き立てるのでこの子ポプ子っぽいなーとずっと思っていました。すぐ怒るし。ゼロ世代のアメリカの女子中学生ってそんなに中指をおっ立ててたのかなあ?