夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

22004 アガサ・クリスティ 「クリスマス・プディングの冒険」 #KindlePaperwhite

表題作は特に、今時期読まなかったら偏屈拗らせない限り1年後のばしになってしまうと思っていま読みました。

英国の楽しい古風なクリスマス。そんな時でもポアロは推理にあけくれていた。外国の王子がある女に由緒あるルビーを奪われたので、それを見つけてほしいというのだ。女が潜む屋敷へと赴いたポアロは探偵活動を開始する。表題作ほか短篇の名手クリスティーによる短篇のフルコースを召し上がれ。

 

表題作「クリスマス・プディングの冒険」

なんで異国(おそらくインドの藩国のどこか)の王子が被害に遭った盗難事件を追うために一介の富裕層のカントリーハウスでのクリスマス休暇にポアロが潜入することになるんじゃい、しかも正体そのままでという疑問は全て片付くからいいですが、昔の田舎のおばあさんによくありそうな下世話と鷹揚さが全体を優しく覆っていたり、美しい良心が一番の謎を齎したり、感じの良いミステリでした。ただ、話し言葉の翻訳がちょっと古いのでいいところの子女がこんな喋り方する??って不思議な会話もあり。そこもひっくるめて古き良きクリスマスのミステリなんでしょうかね。ポアロがいい仕事をしすぎなのが気になる…

 

伝統的クリスマスの描写は王道かつ憧れ。当時すでに古いものとして感じられているようだけど安心感も伴うのがそこかしこで語られていて、何で見ても決して食べたいとは思わないクリスマス・プディングですが興味はそそられました。異物があるって分かっていて食べるのが私は怖い。

 

「スペイン櫃の秘密」

文庫本のタイトルは表題作のクリスマスものだけど、ここから先は違うっぽい。

スペイン櫃と呼ばれる大きめのチェストの中で人が亡くなり、その持ち主が容疑者として逮捕されるという事件をポアロが追うのだけど、関係者の供述や状況の説明がとても丁寧に掘り下げられていて私もフーダニットの世界へ入り込んでああでもないこうでもないと犯人当てに没頭してしまった。

結果として導かれた真相は面白かった。シェイクスピアの「オセロー」を知っていたら更に面白いんじゃないかな。途中でオセローになぞらえ始めた時点で「そうだとしたらあのキャラがいない」と私は気づいたんだけど、それこそが真実へつながったという。

美しすぎる妻への不信ってどこにでもある問題ですが、やりきれない悲劇が起こるもんですなあ、でもそのへんのやりきれなさに関しては大して情緒や感情を持ち込まず、美しすぎてその自覚がない妻の罪深さの方に焦点を当ててるのはちょっとな、妻悪くないやん。いい迷惑やん。それは書き手のアガサ・クリスティファム・ファタールに対するルサンチマンかヘイトか毒なのか、そこが引っかかりました。

 

「負け犬」

2022/01/07読了。短編と言うには長いお話でした。お風呂でとぎれとぎれに読んで一週間位かかったのかな。

読み終わってみれば、よくこんなタイトルをつけるなという気持ち。書かれた当時より今のほうがある意味優しいのかもしれないね。

富裕層の主人が殺され、住人全員が容疑者の可能性がある中で一人が逮捕されるが、被害者の妻がそれを不満に思い、ポアロを雇う。

展開とかオチは違うけど様式が「ナイブズアウト」を思い出させる感じがしました。ポアロの細かいが容疑者たちを煙に巻く調査にジリジリ翻弄される容疑者と読み手の私。

結局犯人はだれやねーーーーん!!とジリジリした結果が面白かった。殺人に至る経緯や犯人にはやるせない気持ちになるけれど、最後の最後がちょっと可笑しかった。どの国もオバちゃんは強い。

 

「二十四羽の黒つぐみ」

依頼じゃなくて、ポアロが興味を持ったパターンの事件。レストランで決まったオーダーしかしない男性が珍しく嫌いなはずのメニューをオーダーした数日後、不慮の事故と思われる亡くなり方をしたが、ポアロは話を聞いて不信に思う。

短めの物語で、わりとスカッとする内容でした。

 

「夢」

ポアロが依頼を受けて奇矯な金持ちと対話する。毎晩自分が自殺する夢を見るという悩みを聞かされるが、後日ポアロに話した同じ死に方で遺体が見つかるが、というもの。

ポアロは自殺であることを決定づけるために巻き込まれたのだけど、巻き込んだ相手が悪かったですね、という感じ。序盤から実は種明かしがされているので上手だなー!と素直に感服。

 

「グリーンショウ氏の阿房宮

変な建築物や美術品が好きな友人を案内して作家のレイモンド・ウェストは地元の怪しい名物の「グリーンショウ氏の阿房宮」と呼ばれる破産した元資産家が趣味で建てた変な屋敷を訪ねる。たまたまその家の現在の女主人と出会い、彼女の遺書づくりに立ち会ったのが縁で姪っ子のルーが変な建物を作った先々代のグリーンショウ氏の日記をタイプに起こすバイトにつくが、数日後に女主人が謎の死を遂げる、という中にひょっこり現れるジェーン・マープル!そういえばレイモンド・ウェストって「火曜クラブ」に出ていた甥っ子だわと思い出したり。

ここでもミス・マープルは火曜クラブで見たような、身近な人に置き換えた推理を見せてくれるのですが、あんまり描写はないものの変な建物として登場したグリーンショウ氏の阿房宮シュヴァルの理想宮みたいなものなのかな、とチラッと思いました。

ミス・マープルの憶測が正鵠を射るという展開はもう私的にお馴染みなのですが、そこまでわかるの??ってびっくりしました。けっこう雑な推理…

2022/01/13 読了。

 

さて、これで短編集「クリスマス・プディングの冒険」を読み終わりました。

なんだかまとまりのない短編集ですが、もともとこの状態で出版されていてまえがきもちゃんとあるのだからよくわからん。解説もないし…

トリックが好きなのは「夢」と「グリーンショウ氏の阿房宮」かな。

「負け犬」は長すぎ。

オバちゃんの勘というか言いがかりが勝ったり、オバちゃんのオバちゃんらしさが男性や若い娘からバカにされがちだけどあながちまちがったもんじゃないみたいな展開になりがちなのは書いた人もまたオバちゃんであり、愛すべき友人にオバちゃんが多くいたのかもしれないなと思いました。

お風呂で読むのに丁度いいですね、ミステリ短編集って。でも次はミステリじゃない短編集を読む予定です。

これがほしいけど前の型を買っちゃったから…