夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

21020 リチャード・オスマン「木曜殺人クラブ」 ふわっとネタバレあり

処女作とは思えないほど書き方がうまい。

未解決事件の調査をして暇をつぶす老人グループ〈木曜殺人クラブ〉。入居する施設の関係者が殺されたのをきっかけに、彼らは真相究明に乗り出すことに。英国で異例の速度で100万部突破のフーダニット。新人離れした完成度を誇るユーモラスな謎解きミステリ

サ高住みたいなところに住む80歳前後の高齢者の人たちがサークル活動の延長で身近に起きた殺人事件を解こうとするんだけど、それぞれの過去の経歴や持てるスキルを生かしてまた老人力も都合よく生かして素人では到底成し遂げない捜査をしていくというもの。遠回しに警察すら操れるところも無きにしもあらず。

 

高齢者だけどフットワークは割と軽く、その代わり高齢者なのでトイレは近いし運転は怪しいし、時々物忘れをする。モンティ・パイソンの国だからちょいちょい意地悪な笑いを感じさせて面白いし、起こる殺人事件は真実がそこにありそうでどんでん返しが何回かあり、気が抜けない。そして登場人物のおおかたが高齢者で彼らに関する描写がリアルなので、老けるということはこういうことなのだという恐れがそこかしこに潜んでいる。長生きすればいつか私にも起こることだと思うと身につまされる。

 

そして高齢者だから、自分だけでなく他人の命に関してもあっさりしていたり軽かったりするのが切ない部分もありました。なんともほろ苦い。

事件の真相は納得だし、殺人事件そのものは人物描写が丁寧で殺されてもそんなに惜しくない人材だから淡々とスルーできる。解き明かされても程よくスッキリできるし上質なミステリではありました。

 

実際高齢者に友達が何人かいるけど、彼らは強かだし老獪だしいい人ぶっていても見た目通りじゃないことが多い。そこが面白くもあるけれど、敬意を払ったうえで手の内は見せないほうがいいだろうなという持論があります。長く生きていろいろなハンデをじわじわ負っていくとしぶとくないといけないし、それは私もこれから獲得していくんだろうな。

 

エリザベスという女性が経歴不詳になっているけれど、過去に彼女が勤めていた場所が途中で描写されているのを調べたら薄々がわりと確信になりますね。

リアルの高齢者の方々にそんなに感じない誰かへの深い愛情を登場人物たちには感じたのだけど(リアルの高齢者は、私の知っている限りは自己愛からくる他者への愛と期待と強かさがあるから、本当に誰かを自分より愛しているようにあんまり感じない、という実は高齢者不信の私)私はどうなるんだろうなあ。

 

そんなおもたーいことも考えながらも、面白く読めたのでした。そこかしこにヨーロッパの様々な過去というか歴史を感じるのもまたリアルなんだろうな。