国書刊行会ッ!総ページ数500ページちょっとッ!すなわち鈍器本!!!めっちゃ重い(歓喜)!!!
https://www.honzuki.jp/smp/book/299426/
ジャン・レー/ジョン・フランダースの決定版作品集!
現代ゴシック・ファンタジーの最高傑作『マルペルチュイ』待望の新訳に加えて、ほとんどの収録作が初訳となる、幻の本邦初紹介短篇集2冊、枠物語的怪奇譚集『恐怖の輪』とJ・フランダース名義の幻想SF小説集『四次元』を収録。
飽くなき生への歓喜と病的でグロテスクな想像力を混淆させ、幻怪で濃密な文体によって独自の世界を創造した、作者絶頂期の精華を集大成。
本が好き!という献本書評サイトさんの公募に応募して、この度この買えば税込み5,000円超える本をいただいて、最長3週間以内に読んで書評を書くという取り組みをしていました。
非常にありがたい。
書評自体は「本が好き!」サイトに掲載していただくのでこちらでは所収されている短編とかショートショートの各話の感想というかメモを置いておきます。
各作品についてはAmazonの情報を引っ張ってきておきましょう。
【収録作】
『マルペルチュイ 不思議な家の物語』
Malpertuis: Histoire d’une maison fantastique
大伯父カッサーヴの奇妙な遺言に従い、莫大な遺産の相続と引き換えに〈マルペルチュイ〉館に住まうこととなった一族の者たち。
幽囚のごとき彼らが享楽と色恋に耽る一方、屋敷の暗闇には奇怪な存在がひそかに蠢き、やがて、住人たちが消える不可解な事件が立て続けに起こる。
一族の若き青年ジャン=ジャックはこの呪われた館を探索し、襲い来る幾重もの怖ろしい出来事の果てに、カッサーヴの末裔たちが抱える驚くべき秘密と真実に辿り着く……
満を持して新訳となる、ジャン・レーの代表作にして、『ゴーメンガースト』『アルゴールの城』に比肩する現代ゴシック・ファンタジーの最高傑作。
『恐怖の輪 リュリュに語る怖いお話』
Les Cercles de l’épouvante
中世騎士の義手が引き起こす怪、ディー博士の魔術道具の呪い、怪鳥ヴュルクとの凄絶な戦い……
幾重もの恐怖の輪が環をなす、収録11篇中10篇が本邦初訳の、父が愛娘に語る枠物語的怪奇譚集。
『四次元 幻想物語集』
Vierde Dimensie: fantastiche verhalen
自動人形に宿った死刑囚の魂の怪、顕微鏡の中に現れた小さな老人の化物、奇妙な逃亡呪術を用いる殺人犯を追う刑事……
収録全16篇が本邦初紹介となる、ジョン・フランダース名義のオランダ語怪奇幻想・SF・ミステリ短篇集。
表題作「マルペルチュイ」についてはそちらで。(「ゴーメンガースト」、持ってるけど読んでない状態なのですが、趣的に似てるのだったら読みたいかも)
本が好き!に掲載中の書評↓↓
https://www.honzuki.jp/smp/book/299426/review/265260/
長くなるので割愛した短編集各話の感想メモ↓↓
「恐怖の輪 リュリュに語る怖いお話」
怪奇小説の掌編集。幼い子にありがちな直感的な鋭さと残酷さを持ち合わせたリュリュという娘に語って聴かせるつもりの体裁で書かれたらしいけれど、子どもに教えるにはなかなかエグい物語集なのでは。
「ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンの手」
首なし騎士っぽい話。美味しそうな料理を提供するのが「マルペルチュイ」でもその役割だったエロディーという信心深い女性。語りては賢明で冒険心がなかったんだろうけど、冒険心があったら死んでたな、て怪談でした。
「ムスティエ焼の皿」
一人称の体験談が殆どを占めるので語り口が軽妙で、なかなかおっかない話なのにちょっと楽しくなる。でもオチとしてはやはり怪談で、怖い美人がちょっと出るので私好みでした。
作品の構成というかつながりがこちらで解釈しないとよくわかんないので読み返したけど、解釈しないとわからないくらいわりと雑で説明不足かもしれない…
舞台は20世紀初頭のオーストラリアでした。
「マーリーヴェック墓地」
幻の墓地を見たがっている物好きで性格の悪い老人の話。この老人が自己中で性格が悪くてどんな目に遭っても特に心配にならないが、出てくる怪しいものがすべて魅力的でした。
舞台はロンドンでイギリス好きの自分には馴染み深い地名がいっぱい出てきました。
「最後の旅人」
ちょいちょい「塩ダラ野郎」という罵りが出るのが気になる。
シーズンオフになるホテルのオーナーが一人で残されるのを不安に思っていたが、列車に乗り遅れた客が一人だけ体調悪そうに逗留を求める。が、不安が的中し客が体調を崩したまま死んでしまう。それが不審に思っている謎の足音の主によるものなのか病気によるものなのかわからず、不安に押しつぶされそうになるが…
という、何かありそうでなにもないような、ドリフの「志村うしろうしろ」っぽさもあるような感じ。ひとり残されて心細いとかも夏のドリフって感じでした。冬の始まりの話だけど。というかこの表現で分かる人ってある程度の年齢より上か。
「悪魔に挑んだ男」
所有者ですら把握できない沼沢地で家畜や家畜番が恐慌状態に陥ったあとで行方不明になる事件が続発し、所有者だった市長がそれの究明のために得体はしれないが知識が豊富なヒルマヘールを雇う。市長は自分は無神論者だが悪魔の存在は信じる、その悪魔を退治して欲しいと要請するという、起こっている事態と会話のやり取りが大部分を占めて、実際の対決や顛末がすごく短いという時々見られる展開で、オチが不思議だしそこまで納得ができないのだけど、不気味ではあった。
「デューラー」
語り手が新聞記者のデューラーに対して心のなかでめっちゃマウントをとるのが人としてちっちゃいしデューラーも語り手も女の子の気を引くためにしょーもないやりとりをするのが、これがどう怪談につながるのかと謎だったけどいきなりわけわかんない怪談になり、女の子の気を引いたりしょーもないマウントを取っていたのはどこへ行ったんや…?とポカーンとしている間に語り手がひどい目に遭い、ポカーンとしたままオチへ。結局女の子がキーパーソンだったのかもしれない…
「幽霊宿」
いまのところ全話に渡って葉巻が出てくる。好きなのね。
説明していたらネタバレになってしまうので、これもいわゆるドリフの「8時だよ全員集合」っぽいかなと無理やり思いました。クライマックスで壁がバターンと倒れて天井が落ちてきて音楽が流れて舞台全部が捌ける、みたいな。怪談なんだろうけど全然怖くなかったが、怖い目に遭っている人を遠目で見るという仕掛けが興味深かったです。
「ヴュルクの物語」
ヴュルクという幻の飛行生物(竜)が危険な沼沢地に住むのを腕利きのハンターが狙う話。これまで読んだこのシリーズのなかで一番お話としてちゃんとしていたし、オチもわかりやすかった。面白かったです。
「黒い鏡」
オカルトオタクっぽい落ちぶれた医者が窃盗までしていわくつきの鏡を手に入れてからの世にも奇妙な物語的な展開が起こるTHE 怪談という感じ。トリに相応しい。結局何が起こったのかは読者の解釈に委ねる感じ。ロンドンが舞台で、ロンドンらしい怪談?かもしれない。作者はロンドンが好きなのかもね。冒頭の、そのシーンにしか出てこない古書店主のモノローグがちょっとおもしろかったです。だいたい性格が悪いか後ろめたい人ばっか出るな。
「終わりに―輪の外で」
リュリュに語っていた父親の真実が明らかになり、切なくて悲しい気持ちになってしまったが、語った物語が往々にして怪談でときどき支離滅裂であったことに意味はなかったような気もする。なんだかしゅんとしてしまった。
「四次元 幻想物語集」
「空中の手記」
死刑囚がなぜ死刑囚になってしまったか、の顛末なのだけど、手記を書く理由がなるほどキリスト教圏という感じ。「四次元」は「恐怖の輪」よりショートショートの趣きです。
「ロボット」
趣味の延長で作ったロボットが稲妻に感電したことによって暴走した結果の話。ショートショートの体裁を取っているけど膨らませていたらもっと面白かったろうな。
「空腹の来訪者」
大富豪の息子が謎の島の探索に、以前その島へ行った博士を巻き込んで向かう。そこには貪食の地球外生物が…というのがあまりにも短く語られているので、行くまでのほうがすごく長くてぶつ切りな感じがある。
「マチルダ・スミスの目」
ちょっとしたミステリとも言えるのかもしれないけど、ミステリにするなら変なミステリというジャンル?
ツッコミどころというと、悪妻に苦労したあまりに独身主義がいきすぎた人が立ち上げた団体とか、その悪妻を例える言い方が作者独自の言い回しでリアルとは言い難いとか。ソクラテスの嫁に似ていると街で評判って、街のどのくらいがソクラテスを嫁の名前まで知ってるのかと。悪妻で名前がクサンティッペって今日知った…
そこへ気が行きがちでした。面白かったけど。
「深夜の乗客」
怪談かと思ったら、一応ミステリだった。珍しくサクセスストーリー…
「幽霊と結婚した男」
ちゃんとした怪談だったけどタイトルからネタバレなのよね…
「海の幽霊」
米津玄師さんの名曲が頭をちらつきながら。すごく短いけど魅力の詰まった怪談でした。
「砂漠の城」
短いながらとても良い怪談なんだけど、描写がまさかのドラクエ風味でその辺が楽しかったです。
「一滴の化け物」
恐怖の対象はどこにでも設定できるんだなと感服する超短編の怪談でした。
「火山から届いたメモ」
不気味な怪談なんだけどオチがお約束だったのが冒頭から想像できてニタァと笑ってもーた
「地獄の森」
「空白の二時間」
この作者の作品って、読者には教えるということもなく、読者にも登場人物にもわからないという展開が多いが別にそれでもいいやと妙に納得させるのがうまいね!と思うお話でした。
しつこい張り込みの末にしょーもない策によって意外な展開を迎える。咀嚼すると面白いショートショートです。
「生きた炎」
川口浩的な作品2つ目。不気味だけど優しい世界だった。
「相席」
相席で出会った人の正体についてなんだけど、昔ながらの職業に対する偏見に満ちているので、いまとしてはそこで恐れるのはどうなん?という内容でした。職業に対する偏見が、「悪いことをすると鬼が来るぞ」とかそういう脅しとか戒めに近い感じなんだけど、そういう感情で見るのはなあ…という、不満含み。
「鏡の中の顔」
罪悪感ってのは重たいものだから逃れたいというごく一般的な気持ちを凶悪犯が持つと、罪悪感も計り知れないほど大きいという感じ。戒め系怪談として秀逸。面白かった。
「鼓動する影」
こちらも罪悪感がらみ。酒乱なのか怪奇なのかが謎というか。
語り手の多彩さが魅力だった。
以上。SF…あれらをSFというのか、サイエンスフィクションじみてるのは「一滴の化け物」とかかな。