夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

ハウス・オブ・グッチ(映画) あんまり褒めてない

劇場まで見に行こうと思っていたんだけど、家で見てもいい映画だった

その名前は、富、スタイル、権力の象徴。
貧しい家庭出身だが野心的なパトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)は、イタリアで最も裕福で格式高いグッチ家の後継者の一人であるマウリツィオ・グッチ(アダム・ドライバー)をその知性と美貌で魅了し、やがて結婚する。
しかし、次第に彼女は一族の権力争いまで操り、強大なファッションブランドを支配しようとする。
順風満帆だったふたりの結婚生活に陰りが見え始めた時、パトリツィアは破滅的な結果を招く危険な道を歩み始める…。

他で見たあらすじではマウリツィオが暗殺された犯人について謎を匂わせていたけどこのあらすじを読んでおけばまた印象が違ったかも。「知性と美貌で」という表現はおかしいけどな、終始教養がないよう描写されていた。

 

謎もなにも、時系列に沿った展開だし依頼するところもちゃんと見せてるから首謀者が誰かもどうしてそうなったかもわかる。パトリツィアが逮捕されるに至る部分の方が表現されず、それまでの出会いから富を得る経過や決別までが長々と描かれるので、時間的にもっと早くに殺されるんじゃないかと思っていたら最後の最後までアダム・ドライバーが生きていてどういう目に遭っていてもお坊ちゃんらしくわりと機嫌がいいので、こういう人を実際知っているのでなんだかイラつくわ(笑)って思いながら死ぬとこまで見てました。地位はなくなったけどまあいいかーって思ってたのかな…

 

もうちょっと構成が違えば面白かったかもしれない。事実は知らんけど亡くなった人ばかりが悪し様に描かれているところがある感じもするので、もっと描きようがあったのではと思わなくもない。ああしたら面白いかと思ったのだったら悪趣味。本当におバカだったのかもしれないけどあれが事実にしてももっとオブラートに包んであげてほしかったパオロとか。ジャレット・レトがとんでもない特殊メイクで挑んでいてピュアピュアなお目々をしてるから気の毒にしか見えなかった。

アル・パチーノの口から「御殿場」が出るとは思わなかった。あそこで一番びっくりしたかも。あの頃の日本はお金持ちだったんだなあ…

 

パトリツィアみたいな人はどこにでもいて、なんなら世代的にもうちの母にそっくりで見ていてずーっと怖気が走ってました。お金持ちのふわふわの坊っちゃんをたらしこんで嫁になり、鼻息荒くなって家族より家族のように振る舞うことなんてよくある。髪型も顔つきも、ガガ様がパトリツィアにすごく寄せていてそっくりだけどうちの母にも似てるの。夫の友人たちの中で張り切って金持ちっぽいことを言っているそばから夫に正されてプライドを傷つけられるシーンなんかリアルで見たことあるよ…って思いながら共感性羞恥とマウリツィオへのむかつきで大変。身につまされるというか。あのシーンはマウリツィオとパトリツィア夫妻の亀裂と不倫の始まりとパトリツィアの浅さが言外に知らされるすごいシーンだとは思う。でもわりと唐突なのよね、終わりの始まりが。

 

言わんでもわかるやろ、ってシーンが多いんだけど(他人の署名を真似るのがうまいという冒頭の伏線からの署名偽造とか)変に曖昧なことも多かったな。サインしたのかしてないのかとか離婚は成立してたのかしてなかったのかとか。

面白かったのがジェレミー・アイアンズ演じるマウリツィオの父の痛烈な嫌味、皮肉。ぶぶ漬け食ってけって言うタイプの人柄でえげつなかったなあ。

クリムトのアデーレを見るシーンがあるんだけど(そこでもパトリツィアが無駄に教養がない描写があって嫌やなあと思う)、実際のアデーレはグッチが持っていたことはないはずなのでなんなんやろな。

逆に分かるのに言うんや、ってシーンもあったな。マウリツィオに商才がないとか。

 

長々と見た割に、豪華出演陣の演技をいろいろ見せられたわりに、私自身に残ったのは「うちの母は父を暗殺するようなことがなくてよかったな…」くらいか。お金持ってるレベルとかぜんぜん違うけども。うちのお母さんも身に合わないお金に目がくらんだ時期があったんですよ。

 

殺した理由はプライドの問題なのか単に彼女が愚かだからかもはっきりせず(両方かも)、犯罪が明らかになった原因がお金が原因なのは匂わせていたけどそのへんもはっきり見せず「くわしくはWEBで」を映画で表現されて、おかげでいろいろ調べてもーたですよ。

 

娘に関する描写は殆どないのは生存している彼女たちへの配慮だろうけど母親が父親を殺すに至ったというのを映画にされるだけできっついよね。事実としておおっぴらにされているけどなんでわざわざ映画にしたんだろう、しかもそんなに面白くない映画にしたんだろうって不思議に思いました。

GUCCI好きだったけど(お婿はバッグ等所有しているけど私は持つ予定はなく、母はいろいろ持っていたなーくらい)これからは見るたびにジャレット・レトの特殊メイクを施され、豪華な部屋でだらしなくて清潔感のないジャージを着ていたパオロを思い出しちゃうだろうな…イメージダウンになってない??

 

ガガ様はすごく良かったです。めちゃめちゃ体を張っていたので(草食系っぽくてニヤついているマウリツィオが荒々しげなセックスをするのは気持ちよさそうには見えなかったので見ている私は引いたわ。あれが気持ちよさそうに見えないのも演技でしょ)もっと評価されても良いのではと勝手に思いましたよ。

偽物が売られていることに関する考えとかはわりと間違いでもない気もしたんだけどなあ。あそこでアルドの言葉に対してパトリツィアが顔を見せないでタバコを吸ったときの表情が「ヌルいこと言いやがって!」って言いたそうで好きでした。愚かだし、行いはよろしくないけどなんだか憎めないんですよね。友達にも子どもにもなりたくないけど。