夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

20004 作者未詳 「虫めづる姫君 堤中納言物語」光文社古典新訳文庫

 堤中納言物語自体は子供の頃に祖父母の家にあった文学全集で認識していたのだけど、アンソロだとは読むまで知らなかったという…

虫めづる姫君 堤中納言物語 (古典新訳文庫)

虫めづる姫君 堤中納言物語 (古典新訳文庫)

  • 作者:作者未詳
  • 発売日: 2015/09/09
  • メディア: 文庫
 

風流の貴公子の失敗談「花を手折る人(花桜折る中将)」。年ごろなのに夢中になるのは虫ばかりの姫「あたしは虫が好き(虫めづる姫君)」。一人の男をめぐる二人の女の明暗をあぶり出す「黒い眉墨(はいずみ)」…。無類の面白さが味わえる物語集。訳者エッセイを各篇に収録。

すごくカジュアルな翻訳なので読みやすいしその割には雰囲気を壊していない。注釈が多くてその注釈を読むほうが面白い時がある。

表題作だけをとりあえず読んだのですが、11世紀ごろに書かれたお話なのに姫君の目線や言い回しが今どきの、「こうあるべき」というイメージに抑圧されがちの立場だけどそこに収まりたくない人とそう変わらない価値観を感じて姫君は非常にみずみずしい印象。周りの侍女たちの時代遅れな価値観が11世紀ですでに時代遅れでそのまま常識とか多数派意見という勝手な決めつけで生き延びていたのが恐ろしくもある。そういったものを一蹴して虫を愛し、蛇をおっかながりながらも向き合う姫君のなんと可愛いことよ。

続きを匂わせて存在しなかったりする意図がよくわからない、本当は存在したのか、私のようにやる気はあるのに書くのは忘れちゃったのか(このブログでのあるある)、匂わせただけっていう当時そういう趣味が粋だったのか。

 

物語の合間合間に翻訳した人のエッセイが挟まれるのだけど、先に読んだ物語の内容をそのまま追ってるだけのものがわりと多くてあれ意味があるのかなあ、小学生の下手な読書感想文じゃあるまいし、と思ってあまりためにはならなかったような。尺を埋めるためなのかな。

で、「虫めづる姫君」はわりといいんですけど、他の話はまあ、たまに引用されるように源氏物語リスペクトの匂いもあり、あの時代だからもあるだろうけど今も通じる感じで出てくる男性が大概どクズです。クソです。好きものと表現されることもあるけど、それはまだ公言されるだけ可愛いもので、公言されなくて当たり前の男性の姿として登場するのがまー、クズ。クソ。ゲス。

読んでるとまたこういうやつかとうんざりしてくる。大概、なんかヤれそうな美人を探してそういう人がいる家の庭に忍び込んで覗き見する、下手したらそのまま一日以上いる、ってただの犯罪者というか変態やん。そんなんが庭にずっと潜んでるのが昔は風流だったのかもしれないけどいまだと単に気持ち悪いやん。イケメンでも嫌だよそれ。夏でも虫にたかられながらそこにいたのかな。そんなの気にしたら駄目なんだろうけど。

ひどいやつなんて、女性がいっぱい集まって(親戚とか姉妹とからしい)あれこれおしゃべりしているのを「こいつは知ってる、こいつとは深い仲になったことがある」とかニヤけてるのほんっとうに気持ち悪い。

 

源氏物語でも玉鬘(好きなキャラ)のくだりで髭黒の大将が光の君の独占欲とドヤ顔の見せびらかしにムラムラしてひどい夜這いをかけるシーンとかありますけどあれ日常茶飯事だったんですよね、あの時代。男のしょーもないエゴと欲に振り回される女性といういまもありがちでいいかげんそういうのからおさらばしたらいいのにそんな太古の昔から苦しめられていたのよねと再認識することとなりました。

 

それぞれのお話には悲喜こもごもあり男性ばかりが得をする話ばかりでもなく、どちらかというとうまく行かなかったりする話も多いのでやきもきもやもやイライラするばかりでもなかったけれど、本当にね、21世紀のいま、大昔のこういうお話を読み返していまの人間関係の有り様を見直したほうがいいかもね。

 

源氏物語の影響も強く、その作品でも魅力であった和歌のやりとりは流石に素晴らしくて風流でした。言葉遊びが巧みというか。趣味の良いダジャレやんと思うものもあったけれどな。

風葉和歌集との関連付けもあるのでそちらのほうが気になりました。

 

あとね、光文社古典新訳文庫電子書籍でもいっぱい持っているのですが、紙は紙で、ページの手触りがすごく良くて触って気持ちいいです。これ紙好きは要注目。

しばらくは古典新訳と他の本を行ったり来たりしながら重点的に読みたいなと思っております。古典新訳を応援したい(わりに、この作品はそこまで褒めてないな…)