今度のお風呂で読む短編集はこちら。
理由なき自殺願望者が集うロンドンの夜。クリームタルトを持った若者に導かれ、「自殺クラブ」に乗り込んだボヘミアの王子フロリゼルが見たのは、奇怪な死のゲームだった。美しい「ラージャのダイヤモンド」をめぐる冒険譚を含む、世にも不思議な七つの物語集。『宝島』『ジーキル博士とハイド氏』の著者スティーヴンスンが書いた19世紀ロンドン版「アラビアンナイト」!
「自殺クラブ」
「クリームタルトを持った若者の話」
一般人に身をやつしたボヘミアの王子フロリゼルがある晩出会った青年の奇行の原因を探ると怪しい団体に行き当たり、潜入は成功するもとんでもない事件に巻き込まれるという話。お付きが有能で忠誠心の強さが武士道にも通じるレベルなせいかどうか知らないけど読んでいて途中から頭の中で「じーんせいらくありゃくーもあるさー」という曲が流れていました。
そう、アクションはほぼないものの、水戸黄門っぽい*1のよね。庶民のフリする高貴な人が世直しをする感じ。王子はかなり危ない橋を渡るけど助さんがちゃんとしてたからなんとかなりました。
杉良太郎さんは「君は人のために死ねるか」が大好きです。
一旦お話は上様のご裁断により片付いたかのように思えたけれど、一番の問題を続きに残したと最後の最後に知らされます。で、続きが以下のお話。
「医者とサラトガトランクの話」
続きと言いながらも語り手と言うか主観になる人物が違うし最初のお話の登場人物がなかなか出てこないので勝手に違う話のつもりで読んでいたらミステリのような違うような、読んでいるこっちは「いまおまえ騙されてるんだよ」と「水曜どうでしょう」ジャングルリベンジ第一夜の藤村Dの如く思いながらお話の流れを追っていました。
しかし追うだけで、主観がちがうせいか感情の置きどころが難しく、展開の思いがけなさに困惑するのみで終わりました。
…騙されたのよくわかってないまま終わってるよ
ただ、主観が違うとフロリゼル王子とジェラルディーン大佐の容姿を客観的に表現されるので彼らがとても美しいという描写があってテンションがアガるのでありました。
「二輪馬車の冒険」
こちらも主観は違う人で、映像じゃないから1話が伏線になっていて登場人物の正体が途中までわかりにくくなっていました。
物語は一応の大団円を迎えますが、ここへきて水戸黄門らしさがまたあり、上様のケリの付け方が王子というより人としてご立派でした。エンタメと思えば面白いです。でももっと膨らませられるはずなのにとっとと物語を片付けて、主観になった人が今ひとつ活きてなかったような。水戸黄門で言うところの、シリーズ最終回で豪華ゲストを呼んだ感じがあったのに大事なところで見どころを全部黄門様が持っていってゲストは??という展開。まあ水戸黄門ファンはそれで満足か。
「ラージャのダイヤモンド」
「丸箱の話」
ゆとり世代と表現するとゆとり世代に失礼なくらいボンクラな人が視点となってヒヤヒヤで予測不可能な事件が発生するけど王子は出ないし何が起こったのか、どう片付いたのかが判然としないのでどちらかと言うと序章的かつある事件を側面から見た状況という感じかしら。困惑しながら読みました。面白いけど出てくる人全員悪人で実質アウトレイジだった(死なないけど)
「若い聖職者の話」
聖職者ってこんなもんよね、と冷淡な気持ちになるような、ふとしたきっかけでとことん堕ちる人の話ではあるけど王子はろくに絡まず「丸箱の話」でどうなったかわかんなかったラージャのダイヤモンドに焦点があたっていきます。面白いけどいきなりぶった切られておわり。
すごい構成。
世界で6番目に大きなダイヤモンドをめぐるアウトレイジ。水戸黄門だったはずがどうしてこうなった。
「緑の日よけがある家の話」
またもフロリゼル王子とは関係のない青年がダイヤモンドをめぐる事件に巻き込まれるんだけど、巻き込まれ方がもはや運命的。冒頭のゆとり世代とは対比的で賢く実直だけどところどころ問題点を感じる。バカ正直というかちょっとピュアすぎというか。
そんな彼も最初の物語の青年同様、やべえ爺さんに追いかけられまくるんだけど、ヴァンデラー兄弟は名士のはずがめちゃくちゃヤバいのでお話がグッとおもしろくなります。
とんでもねー展開でもいつのまにがフロリゼル王子が美味しいところを奪っていくんですよね。上様のおさばきは華麗だわ…
「フロリゼル王子と刑事の冒険」
…と思っていたら、王子は王子でダイヤモンドにちょっと頭がパーになっていてふつーにやばい事態に追い込まれたけど、さすが若くても海千山千の経験ある(知らんけど)??王子だけに外見上では特になんでもないことかのようにとんでもねー解決の仕方をしました。ハッピーエンドありでめでたしめでたし。
以上、光文社古典新訳文庫「アラビア夜話」読了。
ミステリと言うよりエンタメ、サスペンスかな。偶然の場合も多いし(偶然て言い換えるとご都合主義だよねえ)構成が凝ってるのでそれぞれの話をつなぐ糸に気づかなかったら困惑するけど後半の「ラージャのダイヤモンド」はいま読んでも面白いです。実直で働き者な青年はあの時代にしてすでに珍しいとか、だったらもういまはどうなるって感じ。
王子の活躍はもっと華々しいといいけどどこかふわっとしてました。
なんだかんだ言ってあっという間に読めて面白かったな…