夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

23003 ホリー・ジャクソン著 服部京子 訳 「優等生は探偵に向かない」 感想 文末に読んだ人にだけわかるネタバレあり

読もうかどうしようか迷っている人へ:前作より面白いから読みなはれ

前作を読んでない人へ:絶対前作を読んでからにしなはれ

前作もいろいろツッコミ入れながらも面白かったので続きが出たのはすぐに買いました。読んだのは前作を読んだちょうど1年後になりますけどね。

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高校生のピップは、友人のコナーから失踪した兄の行方を探してくれと依頼される。兄のジェイミーは、2週間ほど前から様子がおかしかったらしい。コナーの希望で、ピップはポッドキャストで調査の進捗を配信し、リスナーから手がかりを集めていく。関係者へのインタビューやSNSなども丹念に調べることで、少しずつ明らかになっていく、失踪までのジェイミーの行動。ピップの類い稀な推理が、事件の恐るべき真相を暴きだす。

 

同性のティーンエイジャーなんてよっぽどじゃないと好きになれないけれど、この主人公は頭が良くて誠実で合理主義なところがあり、場を支配したい傾向があるのでその頭がいいだけに感じの悪いところがやっぱり好きじゃない。本人としては誠実でいたいし、自分の正義に反する人以外は幸せになってほしいと思っているいい子なんだけど、ちょいちょい嫌なところが出てくるのが、モデルがいるんじゃないのかなっつーくらい人物造形がしっかりしている。あんまり友だちになりたくない。ひねりたくなる。

 

前作の結末から彼女に何が起こったのか、様々なところで触れられていて大げさな言い方をすれば時代の寵児みたいな受け入れられ方もあり、高校デビューを果たしたともいえるし、そのマイナス面も半端なくあるなかで自分が関わった事件にケリをつけるべくポッドキャストを利用してその後の裁判も含めたレポートをすることにしたんだけど、YouTubeじゃないんや、と時代を振り返ったところで2018年と。いまやったらYouTubeやな…あの頃でも十分YouTubeで良かっただろうけど

 

そこでの大バズリをきっかけに前作にも出た親友の兄が失踪したために捜査するよう依頼されるのだけど、本人は前作で懲りてるから最初は拒否します。まあこれでノリノリだったらねえ…引くわねえ。

でも物語の神様がうまく彼女を事件捜査に導くんですよ。そうでないと続編ができないものね。

読み手が納得する方法を導きます。24歳の男性が親と喧嘩したあとに姿を消してもそりゃあ警察は探しませんて。家族の勘で事件に巻き込まれた可能性が示唆されても警察は取り合わない。これは割とどの国も一緒でしょう。そこにフロスト警部がいたらますます駄目。そのうち戻ってくるだろう、お嬢ちゃんって言う。そして言われるの。

 

やむを得ず親友の兄を探すことになり、彼の足跡を追うと徐々に彼が家族が思うような人とは言えない部分を持ち合わせ、秘密を抱えていたというのが明らかになっていくうちにお話は面白さを加速させていくんだけど、そこで驚くのがイギリスの飲酒可能年齢が18歳だから高校生がパーティで飲んだくれるのもアリだったり、わりと田舎でもマリファナがそこかしこにあること(前作でもその描写はあったか)

あと本当かどうかわかんないけど性被害に遭った女性の名前が公開されるところ。裁判とかならわかるけどピッパのポッドキャストでも名前が公表されるので大丈夫かいなとゾッとした。伏せなさいよそこは。だから嫌われるんだよ。

 

前作でこじれた人間関係、前作から変わった人間関係からもドラマが生まれていくのと冒頭から前作の結末が語られるので本当に前作も読んだほうがいいです。ピッパの家族関係は前作を読んでいたほうがわかりやすいし前作で何が起こったかも語られますが、前作でドキドキしながら読んだほうが絶対おもしろい。

 

望む望まざる関係なく名探偵になってしまった18歳の頭が良くてリサーチ力がある女の子が次の事件で様々な目に遭うんだけど今作のほうが女の子に同情できたし共感もできました。三部作なんだっけ、三作目が今年に日本で出版されるのでそれは早めに読みたいと思います。今回のことを得て、また新しい事件に直面することになるんだろうけどそこでどう振る舞うのか気になる。

謎の開示のしかた、後半の展開も前より個人的に好きでした。たぶん前作より主人公がそこまで頭のいい愚か者じゃなかったからかな。

 

 

ここからネタバレ

(前作のシェアをはさみます)

 

小さな町の主人公の周りで舌の根も乾かぬうちという表現が似合う感じで事件が起こるのでそらあ捏造を疑われるし読者の私は「江戸川コナンかよ」と思うわけです。

前作と変わった部分、新キャラが軒並み事件に関わってくるのは創作だなーと思ってしまうし、前作よりは無茶はしてないにしても終盤はなんで一人やねんとツッコミいれずにいられない。

そしてわりと終盤で明らかになる事件の真相に近づく新事実ももっと早くから匂わせても良かったのではと思うくらい唐突ではあった。

真犯人(といっていいのか謎)が長々と自分がやったことの原因を喋り続けるところはめちゃくちゃよくあるミステリで前作もそうだっただけに「もうええけえ」という方言が出てしまったり。まあそのくらい喋りたくなる気持ちもわかるけど。

 

結果的に主人公が大きな大学への進学を控えたまっとうな学生であることは変わりないけど、明らかにクロの犯罪者が周知の中でその街に住み続け、その被害者も住み続け、さまざまな事情がバラされた人もその街で住み続けるなんてどうなん?そしてクロの相手にバレてないことになっているけど怒りに任せて嫌がらせをした主人公は本当にそのままいい大学に進めるのか、そのへんも気になります。頭がいい愚か者である部分を脱することができるのか、どうか。

 

イラつく部分もあるけれどそれだけ面白いってことなんですよね。もっと多くの人に読まれるといいです。