夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

21019 モラヴィア「薔薇とハナムグリ」#光文社古典新訳文庫 #KindlePaperwhite

お風呂で短めの小説を読むのにKindle Paperwhiteは良いということを再認識して活用中。

昨日でアガサ・クリスティの「火曜クラブ」を読み終わったので次は何読もーって選んだ結果がこちら。

官能的な寓話「薔薇とハナムグリ」、眠り続けるモグラの怪物の夢に操られる島民の混乱を描く「夢に生きる島」。ほかに「部屋に生えた木」「ワニ」「疫病」「蛸の言い分」など、シュールで風刺のきいた世界が堪能できる20世紀を代表する作家モラヴィアの傑作短篇15作。「読まねば恥辱」級の面白さ!

「部屋に生えた木」

 おとぎ話のような、ヨーロッパの映画を見ているような、変なところで反りが合わないカップルの話。関係性や展開が何を表現したいのかいろいろ考察したくなる内容です。読書会向き。

 

「怠け者の夢」

 怠惰のありようが私にとってはちょっとうらやましいが、怠惰がすぎて人間関係がこじれてるのは「怠惰ってそんなもんですよ」と思わなくもない。楽しく読めたのですが、朝お風呂で読んで特に眠りたくもないのに睡眠欲マシマシ。睡眠テロやと思います。

 

「薔薇とハナムグリ

 暗喩に満ちた官能的な表現が美しく、想像力をかき立てられる。何も知らない状態で読んでほしい。性癖に関する懊悩や態度は切なく、こういったものは昔からついてまわっていたんでしょうね。表題作だけあってこれだけでもこの本は読む価値あり。

 

「パパーロ」

「部屋に生えた木」にちょっと似たところがありつつもこちらのほうがグロテスクでホラーR指定。「ここまで頑張ったんだから」というものに見切りをつける勇気について最近よく考えるのだけど、枢軸国のお国柄はそこの引き際が下手なのかもしれないと、この作品の主人公一家の性根が枢軸国のお国柄ゆえかどうかはわかんないながら思いました。

 

「清麗閣」

貴族と富裕層の美しい結婚式が催される場所が清麗閣という格式あるホテルなのだけど、新婦の母はもっと現代的で高級なホテルが良かったわあとかなるほど新婦の母らしいぼやきを繰り返し、彼女の視点で披露宴の模様が描写されるんだけど事態はだんだん私にとってメシウマな、とんでもねー展開に。

おぞましいけどこういうの好物なんですわー夢に出てきそうだけど面白かった。

 

「夢に生きる島」

異常論文系キターーーーーーー!!!

でかいモグラと王の娘の間にできた子どもが寝ながら統治する島の特異性について語られてます。すごく変な話で異常論文でもとりわけ好き!という感じではなかったけれど、でも謎の生態と影響を受ける国民たちの話は面白いんですよ。

 

「ワニ」

半沢直樹1期の社宅で頑張る上戸彩のような境遇の女性が夫の上司の妻に招待されてお呼ばれし、ぜひともパワーゾーンの薫陶を受けようと思っていたらとんでもねーシュールと言うか不条理な世界が地味に繰り広げられていて、こういうのコントでありそうと思ったのでした。

 

「疫病」

これも異常論文かな。めっちゃ臭くなる感染症について、罹患者と罹患者の周りの人の反応と研究者とキャリアについて、まず感染症についての説明から、罹患者に関する貴重な資料として一人の罹患者について語られる。コロナに置き換え可能なところもあっていま読むと興味深い。そういう単語は使われていないけれど、いまなら多くの人がわかる「集団免疫の獲得」についての説明もあり。これから読むにうってつけの題材で面白かったです。

 

「いまわのきわ」

評論家をやっている友人の今際の際の告白をショートショートで。人への影響について考えさせられるけど、誰かの助言やコントロールに惑わされないで自分の好きなことをするのがいいよね、と私は思いました。

 

このあたりで半分なんだけど、大好き!と思うよりすこし遠い距離で面白いと思っています。異常論文もあるけど、よだれが出るタイプではない(私は異常論文がよだれが出るほど好きな変態)

 

「ショーウィンドウのなかの幸せ」

これがいままでの作品の中で表題作と同じくらい好きかも。すべての人に読んでもらいたい気がする。もちろんお婿にも読んでもらうし、親友にもこの本をプレゼントするつもり。

 

「二つの宝」

世にも奇妙な物語」みたいな不気味で悪夢のような物語でした。若い女性と結婚する富裕層がちょいちょい出てくるけどやっぱり書き手の想像しやすいひどい目に合うおっさんのテンプレなのかな。設定や世界観の描写がしっかりしていて面白かったです。

 

「蛸の言い分」

釣られて食べられる直前の蛸が釣った人間に対して蛸としての生き様を語る話。信仰や信条について面白おかしく書いてるけれど、なにしろ食べられる直前なので悲哀もある。蛸の行き着いた答えが今の私の実生活でも思い当たるふしがあり(日本人の多くに思い当たるふしがあるでしょう)ちょっと考えちゃう。

 

「春物ラインナップ」

流行を追いたい若妻とそれを否定したい20歳年上の夫の対話なんだけど、これがぎょっとする内容で。知らない状態で読んでほしいからなにも書きたくないけど強烈な風刺作品です。面白いよ!

 

「月の”特派員”による初の地球からのリポート」

こちらはひどくて親しみやすい異常論文でした。非常に興味深いし、読ませたい政治家集団がいるかもだ。特に文化面の話。

 

「記念碑」

 対話形式の構成で主人公=作者と観光ガイドの二人のやりとりが表現されていて、旅先での一コマなんだけどどこで何を見ているかがポイント。信じているものやルールがいかに不完全で独善的かを考えてしまう。これは面白かったです。

 

 

まとめ

全15話読了。全体的に夢に見そうな展開の中に暗喩を感じるものがあり、シュールかつ風刺が効いていながら大変読みやすく、楽しいというより面白く読めました。ところどころ官能的なのもよい。

性的マイノリティにも言及されていて、とても「いま」という気になるけど変な宗教的な道徳の押しつけが横行するようになったころからこの問題はずっと潜んでいたんですよね。

 

異常論文って世界のどこに潜んでいるかわからないところもまた魅力で、こうやってたまたま見つけられたらラッキーですね。どこまで収集できるかな。

お風呂で読むのはうってつけで、1話読み終わったらちょうど温もっている感じです。