夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

21013 ディーリア・オーエンズ「ザリガニの鳴くところ」

これはすごいのでみんな読みましょう。 

ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。
6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。
以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。
しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……
みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ──。

 節子が頑張って生き残った印象を持ちながら、彼女が直向きに自立生活を行うことを陰ながら助ける人たちの好意に触れるたびにうるうるする。

 

構成が1969年でチェイスが変死体で見つかるところからの捜査と湿地の少女が1952年から一人で糊口をしのいでいくところを割と交互に語られていくので、どうなるのか捜査の行方と変死の真相、カイアの成長どれもハラハラして読んでおりました。

 

ノース・カロライナ州は一応南部に属しており、当時としては白人と黒人がはっきりと差別された社会の中にあって、貧乏人と呼ばれる白人もまた差別を受けて暮らしていたのは、ここで描写されなくてもうっすら察することができるかもしれない。あの頃って(下手したらいまも)差別意識って露骨で、見下せるものは何でも見下したい人たちで一杯で、社会の仕組みもそうできていたと色んな作品で触れていたし。

 

その中にあって、心優しい黒人夫婦が孤独に暮らすカイアを陰ながら手助けするエピソードがどれもハラハラする自分の気持ちを救うのでした。人種とか階級とかに関係なく、社会的常識などを振りかざさず、野生の動物を見守るようなやり方じみた感じもあったけどよく放って置いてあげてたなと感心してしまう。

 

でもこういう状況だと放っておかれるのは随分ありがたいのよね。孤独を干渉されるのは怖いことだもの。

そのへんも丁寧に描かれた上で、四季折々の湿地の光景が色鮮やかに描かれており、なかなか住みにくそうだけど馴染んでしまえば自分の好きな世界になりえるのだと、カイアの目を通して知っていけました。作者さんが動物行動学の博士らしく、プロならではの視点が盛りだくさんで細やかでした。

 

しかしまー、この作品に出てくる男性が大概、「こういう奴いるわあ」と思える野郎だらけで、一人ひとり沼に蹴落としたくなりましたわ。テイトもな!理解はできるけど!

もともと人慣れしてない中で男性不信になっていくのがもういたたまれない。

 

これまでも小説を趣味で書いていたのかな、こなれていたし法廷のシーンも目に浮かぶようでした。これが初めての作品とは思えない。

 

いろいろ感情を揺さぶられながら最後まで読んで思い出したのが、知っていればネタバレになるのですが、この映画でした。

 超名作なのでこの作品を知らなかったら見ましょう。大好きなので何回か見てます。