久々の銀背
ヴィクトリア朝、ロンドン。父に続いて母を亡くした令嬢メアリ・ジキルは、母が「ハイド」という人物に毎月送金をしていたことを知る。ハイドというのは殺人容疑で追われているあの不気味な男のことだろうか?メアリは名探偵シャーロック・ホームズと相棒ワトスンの力を借りて探り始めるが、背後には謎の集団“錬金術師協会”の企みがあった。調査するうちメアリが出会ったのは、ハイドの娘、ラパチーニの娘、モロー博士の娘、フランケンシュタインの娘といった“モンスター娘”たち。彼女たちは力をあわせ、謎を解き明かすことができるのか?さまざまな古典名作を下敷きに、一癖も二癖もある令嬢たちの冒険を描くローカス賞受賞作。
モチーフは好みだけどなかなか序盤は読みすすめられず、他の作品に浮気しながら最近になってエンジンが掛かりました。きっかけは、仕事行く前にパラパラ開いたらやめられなくなったという…あれはよほどの作品以外はなんでも面白く感じられて、とっかかりがつかめるタイミングだと思う。仕事に行くよりはきっとなんでも楽しい。
なにしろ主人公はずっとお金の心配ばかりしている没落したお嬢様なので、お金の心配なんて現実でうんざりしている私の心を惹き付けるはずがない。救いはこの作品の面白い特徴である、物語が書き手によって書かれているリアルタイムに登場人物があれこれツッコミを入れるシステムで、それによって魅力ある女の子たちがこれから冒険するんだってわかるところ。お金に悩むのは非常に大事なことではあるし、だからこそ必要に迫られて展開する部分もあるから無駄じゃないけども。
主人公以外は確かにモンスターじみたところがあって実に興味深いけれど主人公は勇敢であっても特に目立った特徴もないので19世紀ロンドンの真面目な令嬢で、こんな子で大丈夫なのかと不安になったほどでした。でも退屈でしんどかった日々を抜け出して冒険する日々にワクワクするようになると物語はぐっと面白くなり、ちょっとしか出ないのかと思ったホームズとワトソンも大活躍でなんだか安心感がありました。→ネタバレ*1
それぞれのモンスター娘たちの話は切なさもあり、特殊能力もなかなかのもので、主人公はジキル博士の娘というだけで特に目立った要素がないのもだからこそのヒロインなのかもしれない。それと、普通であるはずの読者と同じ目線で見られるから読者にとってありがたい存在なのかも。私はそれより彼女の生活を一切取り仕切るミセス・プールが主役でもいいと思ったけどね。すごく魅力的で包容力ありまくり。みんなのオカン。
物語は一応一話完結だけど、ラストに新たな問題が投げかけられ、解説でも三部作と紹介たので早川書房さんは責任を持って最後まで銀背で出版してほしいなあ。
19世紀ロンドンの空気感は濃厚で、すごく取材されたんだろうなとわかる。私の大好きな世界が見事に再現されていました。そこで活躍するモンスター娘たちがバックボーンのせいか実によく馴染む。
私はフランケンシュタインは子供の頃にアニメ映画を見ており、Dr.モローの島はその映画が大好きな母から隅々までネタバレされていたので話を知っており、ジキル博士とハイド氏は母から二重人格とは、という私の質問から丁寧なネタバレをされ、ブラム・ストーカーのドラキュラはコッポラの映画とキム・ニューマンの「ドラキュラ紀元」を読んでいるのでその登場人物たちはいろいろ知っているという状態で読んだので、ラパチーニの娘以外は調べないでもスイスイ読めたし、知らなくても問題ない展開だったから別にいいんでない?とも思いました。
ラパチーニの娘が一番面白そうだけれども、ちょっと前に発売された乙女ゲームのヒロインが似たような特性を持っていたな。ラパチーニの娘であると明言されていたかどうかは忘れたけど。
これこれ。これにもシャーロック・ホームズが出る。こちらについては以前ブログに書いたはず。(数分後確認。書いてなかった。攻略するのがしんどかったからかなあ…)
フランケンシュタインとジキル博士とハイド氏はちゃんと読みたいですね。たぶんどっちも持ってるはず。後者は両親の本棚でも見たことがある。
ちゃんと見た覚えはないけどあらすじは全部母から聞いているという、厄介な作品の一つですわ。ありがたくないわあ。どうせなら原作が読みたいな。
副読本たち。特に「吸血鬼ドラキュラ」は今後のためにも読んだほうがいいのかもね?