夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

21005 ローズマリー・サトクリフ「炎の戦士クーフリン/黄金の騎士フィン・マックール」

 クーフリンというかクー・フーリンが語られたアルスター神話群を現代でも読みやすく小説化したものです。作者のローズマリー・サトクリフはそういうのが上手な人というのは私も知っているくらい有名で信頼できる感じ?

太陽神ルグとアルスターの王女テビテラのあいだに生まれた英雄クーフリンの哀しい戦いの物語と、フィアンナ騎士団の英雄で、未来を見通し病人を癒やす不思議な力を持つフィン・マックールの物語。エリンと呼ばれた古アイルランドで活躍した美しく逞しい騎士たちを、神々や妖精が息づく世界のなかで鮮やかに描く。サトクリフ神話英雄譚の傑作2作を1冊にまとめる。

とはいえ、私にとってくらいクー・フーリンといえばゲームのキャラクターのイメージが強く、まず女神転生の仲魔、ペルソナの美しい槍使いで知って、Fateの青い槍使いの兄貴は最近親しみを持った状態で。好意を持ったのはペルソナからだけどキャラクターとしての体温とか距離感の近さを感じたのはFateの兄貴ですよね。兄貴と切っても切れないのがスカサハとクイーン・メイヴでどちらもペルソナでもFateでもおなじみになるのですが、原典での関係性がわからないと特にFateは理解は薄くなってしまうので気になっていました。だからこの本をFGOをやるまえから買っていたんですが、最近になって気になって本棚から引っ張り出した次第。

 

フィン・マックールはFGOではQ垢*1にしかいないからそこまで親しみがない。FGOをやっていてイメージが出来たとしたら、「鮭」と「フィオナ騎士団」とか。声が三木眞一郎さんとか。部下が超イケメン(ディルムッド・オディナ)とか。

 

クー・フーリンに関してはゲームから関心を持ってウィキペディアとかでも調べたけどね。ペルソナ4で塔のアルカナですごく強かったんですよね。合体したらヨシツネになるんやったっけ。でもスカサハに弟子入りしたくだりくらいしか知らず、どの程度メイヴちゃんと確執があったのかわかんなかったのですよ。

 

一通り読むと強さの誇張などはなるほど神話ですが、作者の力量によって史実かもしれないと思いこむほどリアリティがあるようにも感じました。魔法や怪物も出てくるし、牛もやたら知恵があったり異常なほど凶暴だったりするけど。

 

良い牛がかなりの幅を占める財産であり、必要であれば牛を略奪するための大戦争も起こるような世界で、女性の首領が強烈だったりする、その一人がメイヴちゃんです。メイヴちゃんとFGOのイメージで見ると可愛くてヤバいけれど、この作中では7人の強い騎士の息子がいて、跡継ぎに美しい娘もいて、婿の台頭が気に食わない強くてヤバい烈女。ある確執がきっかけでクー・フーリンに執着するようになり、そのためもあって牛絡みの戦争が起こるけれども、対するアルスター陣営はみんなよわよわの呪いを受けてクー・フーリンが孤軍奮闘せざるを得なくなるという、ちょっと不条理な状況に陥って、最後あたりはどうにかしてクー・フーリンを殺そうって流れになります。物語がそうしたいからクー・フーリンは死ぬんやって。もっと活躍させて幸せにさせたれよと思うんだけど、時代と世界が英雄の生き様を語りたかったらこうなるという感じなんでしょうね。安穏なハッピーエンドなどないと。

 

エピソードの一つに、「二枚舌の」というしょーもない二つ名を持つ性格の悪い味方に英雄3人が翻弄されるくだりがあるのですが、平家物語にも似たような話があるんですよね。いかに噂とか他人の胡散臭い話を真に受けてしまうか、という、英雄や武士といえども信念がなく、愚かな部分もあるという展開なんですけど。

王様から信頼のない者の言葉を真に受けて周りの国にも迷惑を掛けるほどの騒ぎを起こした挙げ句にどうせアイツの言うことじゃん!ってさんざんひどいやらかしをしたうえで騒いだ張本人たちが笑い合うというひどいオチのうえに後々までこれが禍根を残すんですよね。このへんのひどさもなるほど神話ならではとか大きな流れの中でどうしようもできない出来事のひとつなんだろうなと思ったものでした。平家物語ではアホやろこいつらって思ったんですけど(たぶん実在人物ですよこっちは)

 

いろいろやるせないお話ではありましたが、神話における女性の扱い、立場というものについても考えさせられる部分もかなりありました。どの時代から女性が蔑ろにされてきたか、どんな倫理観を以て女性は扱われていたか。基本、女に手をかけないけど(クー・フーリンは特に)ほかの歴史上の習慣でも多く見られるけど捕らえたら奴隷にされます。

メイヴちゃんは女王で騎士たちを顎でこき使えるけれど、ちょいちょいお婿で女王と結婚したから権力を持てた王にバカにされがちで、それを凹ませるためにもクー・フーリンにつながる戦いを検討するんですよね。4000年前の神話から王族の姫は政略結婚の道具で結婚も父親の意向が影響していたようだし(クー・フーリンの母親はそういうものとは無縁で神族に拐かされるかどうかして神様と結婚しちゃったんだけど)スカサハは大勢の若者を弟子にするほどの勇猛な女性ではあるが、他所の勇猛な女性が配下を連れて略奪に来ることには煩わされるくだりがあり、決して無双ではない。スカサハがなぜそのくらい強いのか、どういう立ち位置なのかはいまいちわからなかったのと、他で読んだクー・フーリンへの予言はなく、関わりがそこまで掘り下げられていないのが残念。城塞へ続く道の長さと細さのイメージがスカサハスカディの氷の城の情景に似ている感じがしました(どこまでもFGO脳)バビロンも出てきて、メイヴちゃんが怪物の娘の異形の魔女を留学させていました。そういう関係性とか流通があったらしい。

 

ゲームと切り離して読んでも面白くてやるせない物語ではあるが、ゲームと切り離さなかったらなるほどクーちゃんがいつもわりと迷惑そうにメイヴちゃんと接しているのがわかる感じ。

でもこのイメージからいったらライダークー・フーリンがいてもいいかもね。戦車に乗ってるからね。

いつかそういう霊基が出るとするなら楽しみです。

フェルグス・マック・ロイも活躍するし、クー・フーリンといい関係性であったんですけど女好きとかそのへんはあまり語られてなかったな…

オルタニキも作中にオルタになるというくだりがあって、反転するのはFateの創作じゃないんやとびっくりしたのが一番の収穫かも。反転したら超怖い。あと額の光は家庭教師ヒットマンREBORN!みたいでした。

 

 2021/03/13

本のもう半分「黄金の騎士フィン・マックール」も読み終わりました。

こちらは3世紀の伝説が11世紀以降にまとまったものを下敷きにしているそうで、クー・フーリンの時代より200年後の話にしてはそのまま野蛮なところがありながらも群雄割拠で同じ土地で様々な問題が起こるより、エリン(古アイルランド)はわりとまとまっていて、ヴァイキングとの戦いのほうが目立っていて11世紀もヴァイキングに手こずっていたのではと思うのでそっちに向いていたのかな、と思ったり。

お話はこちらのほうがおとぎ話とか昔話がまとまったみたいなところがあり、登場人物の性格付けも読者の興味をそそるような特徴がいろいろ備わっていたのだけど、時々「この人だれだっけ」と、当たり前のようにいるけど実は初登場ではって感じの騎士もいたり。

それまで(クー・フーリンの時代も)活躍していたと思われていたのが実はポニーで、騎馬にむいた馬はここで初めて出てきたんですよという、読者というか私のイメージを覆す事実も描写され戸惑いつつ、結局フィン・マックールの物語というより、その配下のディルムッド・オディナ(ディアミッド・オダイナ)のほうが主役っぽかったね、という印象もありました。

でもこのディルムッド・オディナの物語も、一人の美しきメンヘラバカ女の情欲が引き金というのがサイテーで、神話と称されるものってたまにこういうバカ女のせいで平和が乱されるよねって読んでいる私もどんどんフレーメン反応を起こすことに。グラーニアがあまりにもひどい。あまりにもひどいから、一通りの物語を終えたら周りの仲間の騎士たちも冷淡な気持ちになる描写があってそれがなかったら私はこの本をどこかに投げたかったかもだ。渦中の人たちは主役だからまあそれでいいでしょうよ、巻き込まれた騎士たちはアホくさいわね、その辺が実に人間臭くてその辺りは好きです。

でもフィンの一生を描く大河ドラマだと思って読むと、フィンってそこまで魅力を感じないから読み終わって「やれやれ」って気持ちのほうが強かったので、物語としてはクー・フーリンのほうが楽しめます。叡智を授ける鮭を食べているから油がついた親指を加えるとすべてを知ることができるという特性も、都合の良いところでしか使わないからタイミング遅!ってツッコミいれることもしばしばでした。その鮭私が食べたいわ(鮭大好き)

FGOで出会ったときに親しみがこもるかと思ったのですが、結局今まで通りフィンは普通に流してディルムッド・オディナはちょっと心が浮き立つんだろうな、って気分です。私の好みの問題ですね。でもディルムッド・オディナもバカ女の美しさに籠絡された時点で男を下げたなーって思ってます。残念。やっぱりクーちゃんがいいわ。

 

*1:と呼んでいる3つ目の垢