夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

19012 マイクル・フリン「異星人の郷(上)」

 

異星人の郷 上 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

異星人の郷 上 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

 

14世紀のある夏の夜、ドイツの小村を異変が襲った。突如として小屋が吹き飛び火事が起きた。探索に出た神父たちは森で異形の者たちと出会う。灰色の肌、鼻も耳もない顔、バッタを思わせる細長い体。かれらは悪魔か?だが怪我を負い、壊れた乗り物を修理するこの“クリンク人”たちと村人の間に、翻訳器を介した交流が生まれる。中世に人知れず果たされたファースト・コンタクト。

私はバリバリの仏教徒で、高校生の時にカタカナ表記でミスをするのが嫌だからと世界史を取らず、ピンとこないからと物理を取らなかったのですが、この作品は現代の主人公二人が統計歴史学者と宇宙物理学者でその研究に必要な単語が際限なく羅列されたり、過去の物語で 中世キリスト教の教えや文化に基づいた精神性や生活が描かれ、当時の科学観や哲学などが会話の中で多用されてもなんかしっくり頭に入ってくるー?

 

という、不思議な作風の物語です。

 

もちろん、その許容の出来具合は人にもよるんだろうけど、ある程度キリスト教と宇宙と中世に興味があったら分かりやすい、作中での会話がうまく状況説明とリンクされていると言うか。あと、理解できない部分は理解できないままでいいともいうか。でも大概「どこかで見たことがある言葉」なのでざっくりと把握できる感じがあります。

あとは自分が作中の異星人になったつもりになればいいのかもね。

 

中世ドイツのシュヴァルツヴァルトあたりの賢い領主が収める小さな所領にUFOが不時着して司祭が宇宙人と交流を深めていくという話だけど、当時のキリスト教観は、場所や教義にもよるんだろうけど鷹揚で異教徒の知恵も取り入れていたり、知識もかなり幅広い。この物語の主人公の一人である司祭がもともとパリで様々な学問を得た人だったというのもあるのだろうけど、キリスト教のいちばん大切な部分は守りながらも宇宙人と向き合い、自分の持てる全ての知識を駆使して対話するのは現代の人が考えた昔の人というより、昔そこで生きた人のような地に足がついた印象を受けました。

宇宙人のテクノロジーに対する司祭が当てはめた造語が今の単語とうまーくリンクしているしな。だいたいギリシャ語で片付くのすごいよね。あと二進法くらいは知ってるからテクノロジーの描写で中世人はわかんなくても私はわかるぞ、とか。

もっと野蛮なイメージがあった農民や職工たちも人によっては深い知識があったり、見識が豊かだったり。もちろんすごく野蛮な人がほとんどっぽいけれど。

賢い領主が自分はあくまでも騎士だからと、下手に賢く振る舞わず、必要な知識は司祭に与えるあたりがよいパトロンで良い領主。

 

読む前はもっと野蛮な展開を想像していたのが、なかなか理性的に事が運ぶのを楽しめてます。

 

が、時代は中世…

 

私のトラウマがえぐられる…

 

ペストがくるんじゃね?物語の随所にその言葉が出てくるし。

 

ペストの話はコニー・ウィリスの「ドゥームズデイブック」でえらい目に遭ったからなあ…手放しで好きとは言えないけど好きというか、胸に来る物語ですよ。

ドゥームズデイ・ブック(下) (ハヤカワ文庫 SF ウ 12-5)

ドゥームズデイ・ブック(下) (ハヤカワ文庫 SF ウ 12-5)

 

こちらにも愛すべき司祭が出てきます。だいたい、中世ヨーロッパに司祭は不可欠なのですよ。

 

まだ上巻を読んだだけだけど、現在の主人公たちの研究がどう過去のファーストコンタクトとリンクしていくのか、冒頭から投げかけられている問いかけの答えが気になってそりゃあ下巻を読むのもはかどりますよ。

中世の田舎の町並み、その描写が丁寧で、そういうのが好きな人が読むといいかも。

歴史もの且つSFって旨味成分しかないっすわ…