夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

清水玲子 「月の子」

 お洗濯物を部屋干しする所に学生の頃読んでいた漫画をたくさん置いた棚があって、干している度に昔大好きだった本が目に入ってうずうずしておりました。

たまに干しながらパラ読みしたりね。気が散りやすいからね。

 ジョジョの奇妙な冒険ジョジョリオンの序盤まではそこにあるので最近だと5部をチラ読みしたりね。

で、ここ半年気になりつつもパラ読みとかしてなかったのに、つい気が向いて全巻読んでみたんですよ。

リアルタイムで本誌で読んでいたし何回も通して読んでいたから話の内容はちゃんと憶えていたとは思っていたんですが。

 

鮭とクマノミのシステムを持つ「人魚」が人間の世界で溶け込み、生殖行為をして卵から産まれた子どもは宇宙へ長い旅をして、子孫を残すためにまた地球へ戻ってくるという設定のもと、10歳の少年はスランプのダンサーのアートと事故をきっかけに出会い引き取られ、「ジミー」と名付けられ一緒に生活するが、ジミーがアートに惹かれだすとともにジミーが絶世の美少女に変貌する現象が起こるようになるが、アートにはジミーであると気づいてもらえない。不思議な縁と勘でジミーのピンチを助けていた「人魚」のショナは、数百年前の産卵期に同族を裏切り人魚を魔女狩りに追いやった「セイラ」の婚約者だったポントワの息子で、セイラと人間の王子の子どもの存在が気にかかっていたが、それがジミーだと知り…

 

と、掻い摘んであらすじを書こうとすればややこしくてつまんないのに(それ私の説明が下手だから)清水玲子先生の美麗な絵とミステリアスな話運びでグイグイ引き込まれて話の筋立てもちゃんと理解できているという。

 

改めて読んだら、すごく好きですよ、このお話。

昔はとても美しく変貌したジミーにショナが否応なく惹かれてしまうくだりがすごく好きだったんですよ。清水玲子先生はスターシステムをちょいちょい使われるのでショナはおなじみのキャラなんですが、このお話ではショナはユリカを捨てて地球に戻ってくるんですよね。「ネオ・ドーベルマン」ではショナとユリカでハッピーエンドなのに。

お話の筋としてはつまんなくてもショナがジミーとくっついちゃえばいいとか当時は思っていたりね。

 

でもお話はとんでもねー方向へ進むので。

巨体女性ストーカーありの、美貌の富豪が悪の華だったりの、可憐な美青年とショナのすったもんだありの。美女に引く手あまたなのにショタコンにおちるアートとかな。

昔はそんなに目覚めていなかったので、いやそれよりチェルノブイリヨハネの黙示録がリンクしてるのこえーよ!って方にグイグイ惹かれたり、ストーカーやべーよ気持ち悪いよやべーよ!って思っていたような気がする。美貌の富豪(ネタバレしなかったらそう言うしかない)がクソッタレなのにぜんっぜん憎めなくてどこをどう見ても気の毒で感情移入しちゃって。

ちょっと現代への恐怖を潜ませた終わり方をしたので読後感としてそんなに良くもなく、清水玲子先生の漫画は「メタルと花嫁」「ネオ・ドーベルマン」「竜の眠る星」からのジャックとエレナシリーズがええかのう…と思っていたんですよ。ホラー要素苦手だから「秘密」とか最近のえげつないやつはそんなに。

 

ですが。

 

いま読んでみたら。

 

いまの性癖に結構ハマる!!!

昔読んでいた頃の私はお子様だったのだなあ…

 

ショナもアートも見た目の美しさやジェンダー的なものを超えた愛に目覚めたんだなあと。どちらも昔読んだ時点でふんわりと理解はしていたんだけど、いやそれよりチェルノブイリこえーよと。そのころと今の間に東日本大震災があったから怖いのはチェルノブイリだけじゃねーよという気持ちにもなっちゃったしな。

 

もともとアートは美しいベンジャミンにそんなに惹かれていなかったのもあったけれど。ショナは血筋の影響からベンジャミンに惹かれていたはずが、セツの誠実さ、可憐さ、ひたむきさに惹かれたのだなあと。お子様でわがままなベンジャミンより思慮深いセツのほうがずっといい子だもんなあ…

セツの性別は曖昧なものだったけれど男性の姿でも問題なく致してしまったあたりもいまの私は良かぞ良かぞわっしょーいわっしょーいと神輿をあげるわけで。

 

ストーカーは相変わらずおっかないし最後の最後までヤバいけどされる側は昔は若干ザマミロって思う部分はあったんだけど、おとなになって読んで見ればまあザマミロとは思うけど苦労人で可哀想なほうが勝つ。すごく自己中なんだけど、そうならざるを得なかった幼少期からの思い込みで最後まで右往左往するのが涙を誘うのよね…

 

結局「魔女」はなんやったんやろうなーとかそのへんは一切説明なしで、あれからは出てこないのよね。パッと見巨神兵だったな…

アンデルセンの「人魚姫」が下敷きになっているんだけど、そこからずいぶん広げちゃってロマンティックで残酷なお話になったのだなあ。

 

セツとショナのカップリングの良さに気づけてよかったー。前からそのカップリングは好きだったけれど、いまは更に特別。女性になっても頭を過るのは青年の姿のセツであったのがもうたまらん。尊いとはこういうこと。

 

ミルキーウェイ、竜の眠る星は性別のないアンドロイドと男性型アンドロイドの恋愛が下敷きになっているので今読むとさらに味わい深い。エレナの出ない「メタルと花嫁」は格別に好きなんですけどね、人間とアンドロイドの恋愛ものは超がつくほど性癖なのであった…

 

竜の眠る星 1 (白泉社文庫)

竜の眠る星 1 (白泉社文庫)

 
ミルキーウェイ (白泉社文庫)

ミルキーウェイ (白泉社文庫)

 
天使たちの進化論 (白泉社文庫)

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100万ポンドの愛 (白泉社文庫 (し-2-15))

100万ポンドの愛 (白泉社文庫 (し-2-15))

 
ノアの宇宙船―清水玲子傑作集 (花とゆめCOMICS)

ノアの宇宙船―清水玲子傑作集 (花とゆめCOMICS)

 

 「ノアの宇宙船」に「メタルと花嫁」は所収されています。好きすぎて2冊持ってる。