夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

チャド・ハーバック「守備の極意」

一日で一気読み。 

守備の極意(上)

守備の極意(上)

 
守備の極意(下)

守備の極意(下)

 

ウェスティッシュ大学野球部の捕手マイク・シュウォーツは、痩せっぽちの高校生ヘンリーの守備練習に見とれていた。ますます強くなるコーチのノックを、この小柄な遊撃手は優美なグラブさばきで楽々と捕え、矢のような球を次々と一塁に送る。その一連の動きはまさに芸術品だった。「来年はどこの大学でプレーするんだ」と聞いた。「大学へは行かない」シュウォーツはにやりとした。「さて、そうかな」シュウォーツはようやく見つけたのだ。みずからの弱小チーム立て直しの切り札を―アメリカ文学界の新星が贈る、野球への愛にあふれる傑作小説。

 

 割りと信頼のできる偉い書評家とスポーツ小説に詳しい書評家の人が以前絶賛していたのが頭に残っていて、図書館で借りていたのが期限が来そうなのでどうしたものかと思い立って読んでみた。スポーツ小説なんて本来全然興味ないんだけど、いまダークな企業について色々考えていて、大学の野球なんてプロになれる見込みがなかったらダークで意味不明な世界でしかないって私は思うわけで、それでものめり込む人の気持が知りたかったのかもしれない。

 

その辺の気持ちのメカニズムが分かる分からない以前にこれ、野球小説と一括りでは言えない小説ではあった。だんだん話を掴んでいくうちにその展開にびっくりして興奮していく!

フィギュアスケート男子のコーチと選手のスポ根サクセスストーリーかと思ったらテーマは愛でした、というような感じ?

 

主人公はイチローみたいな守備が神がかった少年で、大学生なのに自分の眼鏡にかなった少年を同じ大学に奨学生でねじ込む権力があるシュウォーツに見出されて大学野球の世界へ入り、メキメキと頭角を現していくのだけど、その側面でルームメイトでチームメイトのゲイのオーエンや学長、学長の娘であるペラの人間関係も絡み、野球小説というより野球の絡んだ青春群像劇って感じになっていく。日本ではありえない感じの世界。

 

最初は野球小説で守備しか才能がなかった小柄の少年の成長の物語なんだろうなって思ったらあっという間に成長してピークがお話の1/3で来たので「あれ?」と思い、文学的見地でも興味深い学長のキャラに「あれ?」と思い、いろいろあれ?と思っていたら萌えていた…!と言いましょうか。

 

まあそれだけで終わらず、とんでもねーアクシデントや胸がざわつくような展開もあり。非常に内容が濃く充実した気持ちになれる読後感でありました。

 

読むとびっくりするから、細かな展開をネタバレせずに勧めてくれた某書評家(信用はしているけれどあんまり好意は持っていない)とスポーツ小説に造形の深い書評家(面白いから大好き)の人に感謝。

 

しかし、多くの体育会系の部活をやっている人に対して思うことなんだけど、人生の先は長いのに、その先に響くほど体を壊して傷だらけ薬漬けになってまで打ち込むのってすごい。特にアメリカだから摂取するものがハンパない。人間の食べ物じゃない感じのものがどんどん出てくる。

そうまでして成功をつかめる人なんてほんの一握りなのに。

きっと一生理解できないんだろうな、いまも体育会系ノリに辟易してうんざりしている案件を抱えているだけにそれは疑問のまま、お話は心に残りました。

 

ただし校正ミスが目立つ。ペラの夫がペラを「ベラ」と呼び続けたりするのは校正者は老眼だったのかとか、ほかにも文字のろれつが回ってないことも。

 

 

読んでいて思わず声をあげちゃったのが、主人公のルームメイト(ゲイの人)が、主人公のダサくて汚いジーンズを「燃やす」と言って新しいジーンズを買い与えたシーンですね。んんんん?どこかでそんなシーン見たことあるな?って。

ロシア人だけじゃないんだ、ダサい服に苛立って「燃やす」って発想になるのは。