夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

クリストファー・プリースト 「夢幻諸島から」

時間勾配によって生じる歪みが原因で、精緻な地図の作成が不可能なこの世界は、軍事的緊張状態にある諸国で構成されている「北大陸」と、その主戦場となっている「南大陸」、およびその間のミッドウェー海に点在する島々〈夢幻諸島〉から成っている。最凶最悪の昆虫スライムの発見譚、パントマイマー殺人事件、謎の天才画家の物語……。死と狂気に彩られた〈夢幻諸島〉の島々には、それぞれに美しくも儚い物語があった。語り/騙りの達人プリーストが年来のテーマとしてきた〈夢幻諸島〉ものの集大成的連作集。英国SF協会賞/ジョン・W・キャンベル記念賞受賞作。

出だしは夢幻諸島の島々のガイドブックとしてAZ順に島々の特徴や文化などについてお伝えします、といった感じで始まるのだけど、読んで行くとなんだかちがう、こんなんでいいの(困惑じゃなくて喜び)?という印象を持ちながらお話は進んでいく。
海があるところに風があり、土があるところに生き物がいるのだけど、いま私が住んでいるところとさほど変わらないようで、奇妙なものもあり、そういう違いが生み出す変な文化や社会が本当にそこにあるように根付いている。トンネル掘りが自己表現につながるとか、掘られた穴を埋めるのが自己表現っていう文化が面白かった。もちろん、法的な規制があったり、常識の尺度は私たちと変わらないので「ガイドブック」を読む私の心の置き所はあくまで普通で良い。
あまり説明していると面白くなくなるのでとりあえず読んでみて、と読んだ人の多くが言うけれど確かにそう。
読んでいたら「あら?」と思うことが多々ある。読み進めて行けば進めるほど。それが楽しい本なのだ。紙の本だったらそれまでのページを繰ることが多いだろうけど電子書籍だとややこしいので、読み終わったらキーワードの検索をするのが楽しそう。読んでる途中だと先のことまで拾っちゃうからお勧めしないけど…でも面白いだろうな。
いちばん気に入ったのはガイドブックを作る人が私的な旅をして出会った人の話とその手前の話。
本を読んでいたらたとえフィクションでもリアルを感じたり整合性とか伏線があれば回収されることを求めてしまうけど、この人のはあくまでフィクションで、あんまり信じてはダメなんだと気づかされる。それがすごく楽しいのであった。