夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

マイクル・コナリー 「ナイト・ホークス」上・下

ナイトホークス〈上〉 (扶桑社ミステリー)

ナイトホークス〈上〉 (扶桑社ミステリー)

ナイトホークス〈下〉 (扶桑社ミステリー)

ナイトホークス〈下〉 (扶桑社ミステリー)

1992年からいまも続いていて、なおかつ評判の良さが右肩上がりというマイクル・コナリーのハリー・ボッシュシリーズ。
ハリーは母親に捨てられた過去と母親から唯一与えられたのはちょっと珍しいファーストネーム(ハリーは彼が望んで略称している名前)とかベトナム戦争ではトンネル爆破係であった過去など、あんまり明るくはない過去を背負ったアラフォー男である。

現在は腕利きの刑事で彼をモデルに刑事ドラマが作られ、そのモデル代で激安危険物件だけど家が購入できるほど。しかしあんまり明るくはない過去があるだけに性格があまりよろしくなく、一匹狼を気取っていてそれが災いして左遷され、いまも何かやらすならクビにしたいという内務監査課から狙われている。そんな彼が通報を受けて捜査した殺人事件の被害者がベトナム時代の戦友だった…というところからお話は始まる。

無理のないトントン拍子で殺人事件の真相が早い段階で見えてくるのに、ボッシュの性格や行動力、境遇が行く手を阻む。主人公が事件捜査ができないのはなんだかおかしいからこれが意外なほどにもやもやする。主人公の刑事というものは、殺人事件が起これば捜査して手がかりを見つけてどんでん返しがありつつも、命の危険がありつつも解決するものでしょ?しかし阻まれる。そのうまくいかなさも読ませる。阻むものがまたいやったらしい。ボッシュさんもけっこう嫌なやつなのについ肩を持っちゃう。

そこから二転三転あってどんでん返しもあり、細かな伏線と根底にある重々しいテーマが生かされて最後には程よいボリュームの面白いハードボイルドを読んだなあと満足できるのだけど、20年以上続いていることを鑑みて気になることができた。

お話の時代設定も1990年代初頭で、携帯電話ではなくポケベル(自動車電話はある。たぶんでっかいやつ)。インターネットってないに等しい頃でWindowsも95以前だから(私は使っていたことがある)MS-DOSとかコボルとかあのへんじゃない?だから資料請求から手元に届くまでそれなりの日数がかかったり、いろいろなことがいちいちアナログ。それでもロサンゼルスの警察だから当時の最先端なのかも。そもそもベトナム帰りといえば今では還暦過ぎてる人がほとんど。今の時代に合わせるならボッシュさんは湾岸戦争帰りくらいか。そう、私が気になっているのは20年以上続いている間、ボッシュさんは最新作で何歳なのかとか、時代は移り変わるのか、システムは時代の流れに応じて行くのか、まさか「ガラスの仮面」方式か?ということなのであった。
事件捜査のシステムや検死などの描写が細かでリアルなだけに、かなり気になる。

最新作まで読んでいる人の回答は必要ない。既刊を全部読んで自分の疑問を自分で解決する所存。ファンが多く、ボッシュさんだけでなくこれから増えていく登場人物にいろいろな思いをかかえていく読者さんを傍観しているだけではもったいなくなった。いくつかの出版社を経て未だに出版され続けている人気シリーズだけに、これから読む楽しみを味わえるのは幸運かもしれない。

以上、書評サイトに投稿したものを転載。
恋愛要素にはちょっと辟易したけど不要ではない位置づけ。
過去にとらわれるって本当にいいことないな、というのがお話の情緒部分に対する感想である。
しかしそういう、お話の核になる登場人物の企みや情緒的な問題、根底にあるしがらみなどしっかりしているから、事件のために物語があるのではなく、一人一人がこれまでを歩んできたから事件がおこったという無理のない展開が出来ていて納得の行く内容だった。
次は…今月読めるといいな。