夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

ELジェイムズ フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ

フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ (上) (RiViERA)

フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ (上) (RiViERA)

フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ (下) (リヴィエラ)

フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ (下) (リヴィエラ)

この本についてお話する前にまず私と、かの有名な「トワイライト・サーガ」について。
最初にソニーマガジンズのレーベルから3分冊で発売されたころに猛烈にハマッって洋書まで買って読んでしまうほどファンだったのだけど、映画化とかベストセラーとか「サーガ」とかまで言われるようになる頃には冷めてました。まず、エドワードは好きだけどベラが好きになれなくて。わざわざ自分をトラブルの渦中にいるように振る舞うようなところがあるのが鬱陶しくて。
ヴァンパイアたちも(人狼族たちも)なんだか彼女に優しいけれどそれは作者の意志が理を歪めているような感じ。エドワードが惚れ込むのも説得力に欠ける。
だって変な子よ?エドワードとのデートで緊張して眠れないから鎮痛剤でラリって寝ようとか実践する子ですよ?鎮痛剤をそんなふうに使ってはいけません!
お世辞にも賢い子とは思えないけれど、どうも設定としては賢いらしい。
そういう、作者による上げ底の魅力で主人公になっているキャラクターってあんまり好きになれないのよね、と、ベラが妊娠した時点でいまのところは読むのを中断。

そんな私が、トワイライトのファンフィクション(二次小説)がハリポタを凌ぐ大ベストセラー、しかも官能小説!と聞いて手にとったのがこれ。
お話は、友達の代わりに若きセレブのインタビューを行うことになった、読書好きで地味なドジっ子が美の化身みたいな描写をこれでもかと繰り出されるほどの美青年資産家と出会ってあれよあれよという間に彼ととんでもない契約を交わすことを持ちかけられるという出だし。
ぶっちゃけて云えば美青年資産家は支配欲旺盛なドSの性倒錯者だったのだけど、あれよあれよと籠絡されかけつつ、でもそんなにMっ気があるわけではなく、単に相手のことを愛して理解しようとするのだけど…という、感情と肉体がうまくコントロールできずただただ上巻の中盤から最後まではてんこ盛りのポルノ小説でもありました。
これ、美青年実業家のクリスチャンがエドワードで、地味だけど本当は自分の魅力に気づいていないだけのモテ期がやってきたアナスタシアがベラで置き換え可能なら関係性もそっくり。クリスチャンなんか髪の色まで同じ。アナスタシアもそうだっけ。
つまりトワイライトはヤングアダルト小説だったから大人の読み手は満足できなかった部分がこれで満足でしょう、って意向?
たしかにエドワードも相当なヤンデレではあったし、ストーカー気質ではあったけれど、ヴァンパイアをドSな性倒錯者に見たてるのはどうだろう…


…面白い、というか笑える。


世の大人のお姉様が気になる部分ではSM部分はソフトだと思います。
私、学生の頃にポーリーヌ・レアージュの「O嬢の物語」を読んでそうとう気分の悪い思いをしたので見識はないこともない。自慢にはならないが。
描写は濃いけど主人公の一人称で絶えず内なる自分(二人くらいいる)と鬩ぎ合いながら素っ頓狂な反応をしているところも多くて真面目に読んだら笑える感じ。
とにかく、世の大人のお姉様はエドワードとベラがこういうことするのを期待したんだなあ、と途方もない気分になりました。
私はオリジナルのカップリングの成り行きを見守りたい方なので。

またこの女の主人公のアナスタシアも学校の成績はいいらしいけれど(それを自慢にしてる)お相手のクリスチャンと対峙した時の理性の狂いまくりなところ、就職の面接時すら色ボケしてるところといい、あと抑制は効かせているとはいえ、他人のテリトリーにずかずか入り込んでしまう世間知らずで好奇心旺盛な感じ、本当に頭がいいのかと疑ってしまう。
ただし、いろんな背景から納得はいくキャラクターだけど。ちなみにお母さんもベラのお母さんとかぶってる。
周りの人たちは彼女を「賢くて美しい」と褒め称えるけど、地の文の彼女、そんなに賢いかな。
我が強くて媚がないのはいいけど…どこがそんなに魅力があったのか、彼女だけ特別になったのかはちょっと説得力に欠ける。物語の理を作者の都合で歪められている感じ。そこまでパクることはないでしょう、と思ったのであった。

でもお話は面白い、というかツッコミどころ満載。
官能的な描写も生々しすぎて日本の谷崎潤一郎で官能を知った古風な私には爆笑、失笑ものだった。他人のセックスの話って、エグいか笑えるかのどちらかでしょう。
胸毛描写があることには私は今更驚かないけど日本のお嬢さんは驚く人がまだ多いだろうな。
やたらリアルでまめまめしいので、たしかにマミーポルノと言われてお母様方がいい刺激を受けなさるかもしれない。読むとお肌がつやつやなるかも。

お話は三部作とのことなのでとんでもない終わり方をする。
私はずっと笑っていたけど最後はエドワードであるところのクリスチャンのことを思うと胸が痛くなった。そしてまたもや主人公が嫌いになっちゃった。


でもトワイライトのファンでエドワードとベラに徹底的にいやらしいことをして欲しかったお姉様にはオススメです。私は新婚旅行でドン引きしたけど。ヤングアダルトなのにヤングじゃない、アダルトだ!って。
でもラストの展開がなんだかアレなので、続きも読んじゃうでしょう。
ちなみに、Kindleで買って読みました☆リアル書店では買えなかった…

トワイライト 上 (ヴィレッジブックス)

トワイライト 上 (ヴィレッジブックス)

人のセックスを笑うな (河出文庫)

人のセックスを笑うな (河出文庫)

(後日)
これに対する奇妙な違和感、どこでもかしこでもとにかく気持ちいいことをやっちゃってるご都合展開、何かに似てるけどそれを私はうまく表現できないと思っていたら、日本の薄い本とかBL本だった。相手は金持ちで見た目も良くて強引だけどなんだか心に傷があり、主人公はどこに魅力があるのかはわからないけどなにかいいらしい。体は気持ちいいけどこじれると心はすれ違う、みたいなの。
あんまり薄い本は読まないからつながるのは時間がかかったけど時々読むBL漫画とかぶるところもある。

えっもうこんなに出ているのか。
たぶん、国を問わず「読者」はこういう話が好きなのだ。

ここからネタバレ

主人公の何が嫌いって、クリスチャンのことが好きだとか愛してるとかいう割には彼の性癖には辟易していて、彼のことをろくに知りもしないのに割と序盤のころからもう好きでたまらなくなっているのはその美しい外見とミステリアスな雰囲気からでしょう。ミステリアスな雰囲気はそれこそ彼の持つ変態的な性癖から醸し出される部分なのでそこをまるっと引き受けないと愛してほしいと思うのも変だと思う。なんとも薄っぺらい恋心ですこと。
それまで男性の友達はいたのに好きになることはなかった男性経験皆無の女の子が惚れ込んだのが初心者には無理な相手だったから結局はリタイアしたけど、やっとまともな恋愛に目覚めかけていたクリスチャンを軽い好奇心で振り回して結局こわくなってトンズラした愚かな娘で、最後は自分と終わった恋に酔って大泣きとか、同性から見ると「こうはなりたくない」と思ってしまうのでした。
こういう終わり方をして、三部作として続きを用意する意味は果たしてあるのか、それが気にはなる…愚かな娘の面目躍如はあるかしら、

このお話って後から後から言いたいことが出てくるのだけど、特筆するべきはCEOがメールで使う顔文字!アメリカ人も顔文字を使う、しかも美しきCEOが自分の性欲のはけ口におくるメールで使うというのがもう、笑えた!Kindle版だとえらく目立つ。あと主人公が使う頭の悪そうな絵文字も。

…びっくりしたし、笑えたなあ。