夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

20005 劉慈欣 「三体」(1巻)

 2巻が出たぞと知って慌てて読みました。

三体

三体

 

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート女性科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。

数十年後。ナノテク素材の研究者・汪淼(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体〈科学フロンティア〉への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象〈ゴースト・カウントダウン〉が襲う。そして汪淼が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?

 

文化大革命、現代最先端科学、地球外生命体、超常現象、VRゲーム(世界観がFGOっぽい)など様々な知識を駆使した内容なのでどんなものか、理解できないのではと思っていたのにまあ、私のために書かれたのかっつーくらい私にはわかるし好物のモチーフだらけでした。

伏義も朕もニュートンコペルニクスも別に知らなくてもいいんだろうけど知っていてラッキー。難しいはずの現代最先端科学の描写もそんなに苦痛じゃない。

 

だけど、モチーフは大好物だけど書き方が意外な感じ。別にそれがいやというわけじゃないけど、どういう方向を目指してこういうストーリー展開にしているんだろう、わかるようになるのはおそらく後半…と思ったらそのとおりだったけど、一つのモチーフでなぜそれを使う?って疑問に感じるものがあって。

 

ここからはネタバレ。

それはVRゲームにあたる部分なんだけど。

私はゲームをやるからわかるんだけど、このゲーム、流行ったり人気を集めるほどおもしろくないと思うのよね…プレイしている人もさほど楽しそうじゃないけれど。バッドエンドの後味の悪さを打開したくてやり直そうとしている感じ?

今の地球からは考えられない気候変動の性格を持った世界で過去の英雄をトップに、さまざまな英霊の知恵を結集して気候変動のシステムを読み取ろうとするんだけど、どういうゲーム性なんだろって。主人公がアイデアを出して現状の打開を図ろうとする、だからシミュレーション要素が強いんだけど、ゲーム性を感じないというか。なぜVRゲームとして体感させようとしたかがよくわからん。

気候変動のシステムで人が脱水させられる、また戻されるくだりはTHE BOOMの「ひゃくまんつぶの涙」が頭をよぎりました。あの、琉球民謡の軽快なリズムで明るく歌われるシュールで悲しい歌詞。

やかんに汲んだひゃくまんつぶの涙を沸かして君を戻そう

しいたけみたいに膨らんでほらほら村一番きれいな顔

 私の読解力が足らないんだろうけど、どこをどう読み取ってVR世界で本来ある三体文明の気候変動を再現したんだろ?そこまで交信できていないはずなのにどうやって理解できていたんだろう?と疑問も残る。が、そのへんはどうでもいいのかな。

 

VRゲームってこのお話においてどのような存在感なんだろう、と首を傾げつつ、作品の根底にある、物語に出てくる人たちの人類やいまの文明への絶望は実際のいまの世界へのものに通じるかもしれないし、なにかしら重苦しいものを抱えているのを飲み込めずにいるように受け取れました。いまの中国が文化大革命をどう捉えているのかは勉強不足でわからないし、このお話が本国で受けている、認められているならさほど文学への厳しい縛りはないのかなとも思うけれど(でも検閲とか、ツイッターGoogleもないとか、香港への最近の仕打ち、ウイグルチベットへの仕打ちを考えるとやばい国だなーって思う。個々の中国の出身でいま地元にいる人達はみんな感じが良いけれども)ダダ漏れの閉塞感よ。

 

現代パートの語り手で主人公とも言える汪淼の存在理由って、この作品のミステリ部分の巻き込まれ役とある重要なものを利用するに当たってその開発者としてその現場に居合わせなければいけないって理由だけだったような。彼じゃなくてはいけない要素って琴関連しかなかったような。いまいちふわっとした人物描写だったな…その代わり彼の影になり日向になって活躍する型破りの刑事が魅力的だった。

 

あと組織がごちゃついていたんだけど、序盤は存在感のあった「科学フロンティア」が全貌がはっきりしないまま別の組織のゴタゴタのほうがクローズアップされて鳴りを潜めてわけわかんなくなっていってたな、と感じた。物語としてまとまるところがまとまっていないような…あんまりケチをつけんでもいいけど。

面白い要素はてんこ盛りだけどそこまでグイグイ引っ張られる感じは受けなかったな。よく最後まで読んだな。VRのシーンでいろいろ疑問を抱えつつ「でも文潔が話を面白くするんや」と自分に言い聞かせたら本当にそうなったという感じ。

 

続きがまったく想像できないんだけど、ここまで読んだからには続きも読みたいですね。例によっていますぐには読まないけれど。

 

三体Ⅱ 黒暗森林(上)

三体Ⅱ 黒暗森林(上)

 
三体Ⅱ 黒暗森林(下)

三体Ⅱ 黒暗森林(下)