夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

13TH ―憲法修正第13条― (ドキュメンタリー)

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ジョージ・フロイド氏が警官による過剰な拘束により亡くなったことが端を発していま世界中でBLM運動が巻き起こっているけれど、BLM運動自体は今に始まったわけでもなく、このドキュメンタリーが作られ公開された2016年の時点でも知られていた重要な社会運動だったのだということを知ったのもわりと今。

 

普段からアメリカと大して近い距離にいるわけではないけれど、ざっくりと公民権運動について勉強してたり、白人警官が割と無防備でどんな罪を犯してるか明確ではない黒人の一般市民をそんなに迷いなく発砲してしまう理不尽な事件を知ったり、映像媒体で触れる作品のどこかしらに人種問題の匂いがしたりするのを見て、人種差別のおかしさ、気味の悪さに怒りを覚えていた。白人のトップの補佐役にパフォーマンスみたいに黒人を起用するところとかもね。

 

このドキュメンタリーはとにかく情報が多いから一度に理解するのは難しいのであと何回か見て咀嚼するべきだし、ドキュメンタリーって一つの言いたいことに対して情報を集約させていく、他の見方を排除していくものもあるから一概にこれが全てだとは思ってはいけないのだけど、はっきりしているのが奴隷制度こそ麻薬のようなもので、タダ働きさせることは富裕層にとって蜜の味、やめられないもの、どうにかして持続させたいものなんだってこと。有力な政治家が本来は感じない脅威を正義の名のもとに自分の権力の誇示をするために悪者を仕立て上げて安心感を与えて求心力を得る構図、そういったものに都合の良い抑圧対象がいるということなのだ。

その根底に人種差別があり、虐げられる有色人種の方々の存在があるんだけど、彼らをどうにかして囲い込むための制度があの手この手で作り上げられ、そのたびにおかしいと声を上げてもまた次の手が用意され、苦しめられるのは貧困層、その多くが有色人種でいまは囚人の収監中の労働がそれに変わっている。日本だったら囚人=税金で食べさせるってイメージだけど、アメリカでは囚人=安価な労働力なのだ。

 

罪を犯すんだからしかたがない、嫌なら法に従えって多くの日本人なら思うかもしれないけれど(そういうのヤフコメでいっぱい見てきたし、SNSでも見てきた)肌の色が違うってだけで警戒され、犯してもない罪を疑われ、とりあえずって感じで捕まえられて、認めないと収監されるより長い裁判が待っている、もしくは保釈金(多額)を払えって言われるとか逃げ道のない地獄だよ。

 

この作品を見て自分が感じたのが、黒人たちが度々運動をしているのを見てきたけどあれ、怒ってないほうだよ。まだ怒り方が足らない。いまの運動も。もう国家破壊しても足らないくらいひどい目に遭ってると個人的な価値観では思ってしまう。それでもいまは暴動を起こそうとする40代をその下の世代が理性的になれ、いまは考えるときだと熱く諌めることが支持される。怒って拳を振り上げてもそれより強い力で制圧されてきたからか、もとの性分が我慢強いのか、彼らはいままで十分すぎるほど耐えてきたからもっともっと幸福を追求したほうがいい。暴力には訴えてほしくないけれど、腹が立ってあたりまえのことだ。かといってはれものを扱うみたいな白人側の気を利かせたつもりの言葉狩りレイシストを頭ごなしに糾弾することや画面真っ黒アピールはなんだか歪なもののように思う。これまで彼らを都合よく犯罪者扱いしてきた権力者は深く頭を垂れたほうがいいとは思うけれど、自らが心から反省しないとなにも前進しない。このドキュメンタリーでも権力者側の人が反省して弁解していたり、全然気にしていなかったりする振る舞いを見せていた。自分のプライドと立場を守るために過ちを認めない人も多く、人権を踏みにじっているという自覚がない。

 

たまたまじゃない気もするけど、いまの日本も自分以外の他人に見せる思いやりについて深く考えさせられる事件が起きている。コロナで鬱憤が溜まっている、自分が気に入らなければ相手を言葉を選ばず叩いていいという感情の処理の下手くそさが相まってギスギスした空気が生まれているのだけど、踏みにじった相手がこの先未来の自分だと思ったらそんな態度取れるのかな。そして、疑問を呈すると「語れるほど学んだのか?」と上から叩いてくるのも目立つ。あなたはどうなんやってそのたびに思うけれども。少なくとも人を思いやることについては学んでないんじゃない?

 

少なくともこの作品を見れば、いま起こっている人種問題がどんなものかはわかるし、理解が追いつかなくても理不尽なことを目の当たりにして何かをしたいという気にはなると思う。何ができるかはわからないけれど、例えば人種とか民族の違いで人に優劣をつけようなんて馬鹿げたことは考えないようになるんじゃないかしら。コロナにかからないようにすることも一人ひとりが気をつけていけば感染は広がらないように、差別意識も一人ひとりが気をつければ誰もそれで不愉快にならないような関係を作れるし、自分と仲間だけが潤う利益を追求して誰かを利用し尽くすなんてことは考えないはず。人種差別って伝染りやすい病気みたいなものだものな、誰かを蔑視していれば自分は優越感で気が楽になるもの。そんなのみっともないんだけれど、なかなかそれに気づけない。

 

いまだから見ろ、ってのもあるけれど、いまじゃなくてもこの事態が解決しても見たほうがいいだろうな。かなり打ちのめされました。対岸の火事じゃないよこれは。