夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

20001 マイクル・フリン著 嶋田洋一訳 「異星人の郷」下

なんで新年に読む話にこれを選んでしまった、わし… 

お年始にペストってアンタ…

異星人の郷 下 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

異星人の郷 下 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

 

現代のフィラデルフィアで、統計歴史学者のトムは、14世紀に忽然と消えた小村の謎を追っていた。同居する宇宙物理学者のシャロンは、光速変動理論を調べるうち、ひとつの宇宙論に到達した。二人の研究によって見出された真実とは。黒死病の影が忍び寄る中世の生活と、異なる文明を持つ者たちが相互に影響する日々を克明に描き、感動を呼ぶ重厚な傑作。ヒューゴー賞最終候補作。

 もしもドイツの田舎の集落のそばに宇宙船が不時着したらー?という中世時代の話と、古い文献をたどってその「史実」を解明しようとする現代ボストンの話なんだけど、エンタメと言うより上巻も思ったけどそこで生きている人が本当に異星人と出会ったらどうなるか、というリアルさのほうが強く、主人公が生き生きしすぎて物語が脱線して衒学的な会話がいつまでも続いて(これ本当に物語の筋に関係あるん?)と疑うようなコマもちょこちょこ。そこが人となりやバックボーンをこちらに伝えて来ないこともないんですけどね。

そこがライトな読み手にしんどく感じるかもしれないが、異星人とドイツの集落の村人たちとの交歓や反発、根強いキリスト教の教義の影響などが描かれるのは仏教徒の私だったらどうだろう、日本人だからマイルド仏教徒だけどとか、自分や周りの世界と照らし合わせて追っていったら興味深いと思います。

 

それまでいろんな本で知っていた中世暗黒時代の社会よりこの作品にあるよりリアルな世界だと「拷問・魔女裁判」などがわりと人道的に法的に整備されていて(よく見聞きしている拷問や処刑はごく小規模な組織のなかの”リンチ”や”私刑”らしい。残酷だからよく取り沙汰されてそれが当たり前の社会だったのだと思いこんでいたからこれが一番驚いた。知っているよりまともで優しい世界だった)理不尽なことが少なく、ユダヤ人は当時も迫害されているけれど助けようとするほうが多いのを知りました。もっと無関心かと思っていたけれど、異教徒の知恵も尊重しているしな…

 

異星人の容姿を悪魔のように捉えるのは「幼年期の終り」もで、そこを踏まえているのかな。読んでると「幼年期の終り」を思い出しましたが、オーバーロードほどの万能感はまったくない。

お話の盛り上がりとかカタルシスとかそれよりあくまで史実です、という展開なので歴史小説を読んでいるのだと思うと面白い。忍び寄るペストの恐怖とかへの向き合い方もリアル。

 

まあそういうもんだと思ったら面白かったです。

現代パートもぜんぜん違う分野のカップルが同居してることの意味があるのかないのか、ドラマ性があまりなくて、いきなり一人称が出てくるのも仕掛けとして特に必要なのか、疑問は残る。

いろいろ勉強になったし中世の田舎の街の構築具合が緻密で竜がいないゲースロって感じ(いやあんなに剣呑じゃない)で読み応えはありました。それと、異星人同士の人間関係の成り行きと主人公と宗教の関わり、物語の終焉はたぶんずっと印象に残るとは思う。本当にそこであったお話かもと思っちゃうとな。

主人公については匂わせるだけ匂わせておいて結局よくわからんところもあったけれど、細かく知らせないのもまあ、味?

 

ところどころフォローしたくなる程度に好感は持てました。中世が好きなら読んだらいいよ、ってくらい。

 

つぎなに読もうかなー