夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

19007 ソフィー・エナフ「パリ警視庁迷宮捜査班」

たまには新刊のうちに読みたいじゃない!? 

パリ警視庁迷宮捜査班 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

パリ警視庁迷宮捜査班 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

六カ月の停職から復帰したパリ警視庁警視正のアンヌ・カペスタンは、新結成された特別捜査班を率いることを命じられる。しかし、あてがわれたオフィスは古いビルの一角。集められたメンバーは、売れっ子警察小説家(兼警部)、大酒飲み、組んだ相手が次々事故に遭う不運の持ち主など、警視庁の厄介者ばかり。アンヌは彼らとともに、二十年前と八年前に起きたふたつの未解決殺人事件の捜査を始めるが、落ちこぼれ刑事たちの仕事ぶりはいかに…「フランスの『特捜部Q』」と評されるコミカル・サスペンス、開幕!

 

■まだ読んでいない人への紹介文■

 実はここ数ヶ月のポケミスの新刊を毎月購入しているのですが、ほとんど手付かずでほかのことにかまけているうちに新刊ではなくなっていくという…

 先月が中国人作家、先々月くらいが確か韓国人作家の作品という流れで今月と来月はフランスの作家によるミステリです。まあ、毎月毎月バラエティ豊か。来月のは剣呑だけど、今月のは…引用文にもある通り、コミカルサスペンス。

 というか、がんばれベアーズ警察って感じ。エリート街道まっしぐらで実力もある警視正がやらかした停職明けに配属されたのは厄介者ばかりをかき集められた吹き溜まりのような部署だった、から始まるのだけど、そこから想像しちゃうような面白くなさそうな要素はほとんどなく、いまどきとても歓迎される「悪い人がいない」作品です。出版社からの宣伝でも紹介されるように、随所に美味しそうな食べ物とお酒が出てくるのも楽しく、またそれを美味しそうに食べるのよね。かと言ってコージーではなく、立派な警察小説…じゃないかしら。コージーの定義がいまいちわかんないんだけど。

このように居場所を作っていけたらいいね、という素敵なモデルケースでもあると思うので、お仕事の息抜きにも読めるんじゃないかしら。私はこの小説、好きです。イッヌとネッコが好きな人にもおすすめできる。

 

 

 

■ ニーズが有るかどうかはともかく既に読んでいる人が読む項(ぼかしているけどネタバレ注意)■

 コミカルだけどライトタッチではなく、凝った構成で点と点が線になっていくさまも強引ではなくなるほどと面白く読めました。主人公がタフで前向きでいい人なのよね、大体のことに寛容で、部下になる一癖も二癖もある人たちを歓迎してうまく活かしていく、ほとんど軋轢がないのが素敵でした。そのへんに変にドラマを求めていやーな空気とかになったりしがちな安直なものになりえたかもしれないのに、そんなことはなく。

 敵に回りそうな雰囲気の人もチームダメ人間に入ってしまったから変な連帯感が生まれているから敵にならないという。むしろ魅力的。

 一人とんでもなくお金持ちがいてその人が押し込められた吹き溜まりのようなアパルトマンを素敵な雰囲気に改造していき、日本の警察では考えられない仲間を連れ込み、良い雰囲気にしていく様子が素敵だった。

 焦点が当てられる事件もそこに見え隠れする秘密が魅力的な人たちによって形作られていってはっきりするところとかちゃんとしていたなあ。ガブリエル(私はこの名前をちゃんとフランス訛りで発音できますのよ)の持っている雰囲気が、なるほどそういう人物造形になるなと説得力のある描写でね。でもこれ、ドラマ化しにくいだろうなあ。ダ・ヴィンチ・コードと似た演出なのよね。

 フランスの警察もパワハラとセクハラ、男尊女卑、LGBTQに対する偏見がなかなか抜けない様子ですが、主人公はそもそもそこへ踏み込まないのもいい。結局部下の性的指向に気づかないままというかそういうことに目を向けないままだったものな。彼らがどういう仕事ができるか、どうやったら居心地よく働けるかを考えているようでした。

 こりゃあね、お仕事している中間管理職から上司と呼ばれる立場にある人はみんな読んだらいいかもね。

 変な軋轢が本当にないのでその辺安心して読めるだけに、本国では3作目まで出ているシリーズ物ですが、ぜひ続きが読みたいです。