夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

19004 フランシス・ハーディング「嘘の木」

 THE 暗黒乙女小説!!!

嘘の木

嘘の木

 

 暗黒乙女小説とは!!

定義ははっきりとわかんないけどどす黒い怨恨を抱える美少女が環境に虐げられながらも強かに己の欲望を叶えるためにちょっと引くレベルで暗躍する感じかな!得意なセリフは「死ねばいいのに」「死んでしまえばいいのに」

代表的と言われるのがシャーリィ・ジャクスンの「ずっとお城で暮らしてる」なのですが、近々映画化するらしい…

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

 

 

今回読んだ「嘘の木」、前から面白そうなのはわかっていたのだけど児童文学賞を受賞したとのことで、児童文学はそんなに得意じゃないからどうだろうと思ったら大人が読んだほうが面白い感じの本でした。

 

時代は1800年代中盤、ダーウィンが進化論を発表して9年くらい経ったころ、ワケありで一家がイギリスから少し離れた島(架空の島、おそらくチャネル諸島あたりかなあ?イギリス本土からそう離れていないけれど、本土の噂が簡単には届かない場所で、氷河期くらいの遺跡が出てくるらしい)へ引っ越してくるところから始まるのだけど、多感で鋭敏で利発的な主人公、フェイスは教会牧師で自然科学者である父親を尊敬し、彼が土地を離れる原因となった汚名に対して心を痛めてなにか出来ないものかと密かに案じていたが、当時社交界デビューもしていない少女ができることなどほとんどなく、父の影響で身につけた知識も無用の長物となっていた。

新しい土地で歓待を受けるも、すぐに父の汚名の原因となった噂が行き渡り、立場が悪くなったと同時にフェイスは父の秘密を僅かながら知るが、その矢先に父親が謎の死を遂げる。

 

美しく強かで自分の都合で子どもを振り回す母親と物心がろくにつかないわがままざかりの弟に翻弄され、尊敬する父親からは過小評価され、と、あまり居場所のない少女がなんとか自分の知性を頼りに自分の信じるものを守ろうとするのだけど、そこに絡んでくる異様なファンタジー要素や心の拠り所としているのが蛇の飼育というあたりがびんびんに暗黒乙女小説。

読んでいて、これを吉野朔実が読んでいたらどんなイラストを付けて紹介してくれただろうかと惜しく思いました。「ずっとお城で暮らしてる」も美しいイラストで「死ねばいいのに」というセリフ付きで紹介してくれたものな…

 

時代背景はダーウィンの進化論により、それまで信じてきた創世記などが覆されつつある、文化的にも動乱の時期のお話で、当時はいまよりさらに女性が軽視され、教会の教とともに様々な偏見が横行していたのだけど、そこを行間で浮き彫りにし、明言はしないものの百合の香りすらする現代だからこそ書けるお話でありました。

ダーウィニズム、神学的、フェミニズム、どの側面から読んでも興味深い。あの時代のイギリスが好きなら道具立ても面白いと思うのですよ。コルセットとかもあるけど、当時の文化として遺体と家族が一緒に写真を撮って写真の遺体が目を開いているように細工をするとかね、今見たら絶対怖いやつじゃん…って思いながら興味深く読みました。あと、葬儀の文化として泣き女がいたらしい。あの民俗的風習前から気になっていたのよね…

 

良い小説は登場人物全員に見どころを与えるのだけどこの作品もそうで、ムカつくキャラクターにも美点があるのを正面から捉えようとするところにその視線のもとである主人公の素直さも浮き彫りになり、私のようなひねくれた読者でもストンと落ち着かせるところがありました。

 

ミステリ要素のあるファンタジーだからミステリランキングにも絡んでいたけれど、ハラハラありの、スリラー要素ありので面白かったなあ。暗黒乙女小説ってキーワードにピンときたら読むといいですよ。

この作者の新作もまたすごく面白そうなので近々入手する予定。著作が他にもあるらしいので翻訳を希望します。

 

カッコーの歌

カッコーの歌