夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

006 007 ケイト・モートン「湖畔荘」上下

 新刊が出たら必ず読みたい作家さんのわりと新刊です。

湖畔荘〈上〉

湖畔荘〈上〉

 

 雑なあらすじ:2003年現在、ロンドンの刑事、セイディはとあるしくじりで長期休暇をコーンウォールで過ごすことになり、偶然見つけた廃屋で昔起こった悲劇を知ることになる。1933年に起こったその悲劇の前後を当事者であるアリス中心の目線で語るパートと、現在のロンドンで明らかになる事実など織り交ぜた手の込んだミステリ。

 

これまでの作品でも過去と現在が入り混じり、深まる謎と読者だけ気づいたり知らされたりする事実など技巧に富んだ内容で魅了されたけれどこちらもそのスタイルを踏襲しています。前の作品は作中作として織り交ぜれられたファンタジーが魅力だったり、上梓した作品のどれもに外れがない*1作家さんなので今回も似た作風だからって予定調和とか飽きが来るとかいう不安はさほどなく、ただこの人の作品に出てくる女性ってそんなにすきになれないんだよねー、前作「秘密」の主人公以外、って思いながら読むとやっぱり出てくる女性みんな均等に私とは合わない。

だからさほど感情移入することはなく、上巻を読み終えました。

 

お話が進むに連れて謎は明らかになるはずがますます深まり、一方が謎の核心に迫ってドヤッとしているかと思えばもう一方がどーせあのことでしょ!と鼻っ柱を弾くような展開もあり。

過去に出てきた建物の現在の様子が明らかになるところは、読み手だけが心をざわつかせる演出になっているのは流石。映画になっても良さそうな、視覚的な演出が様々なところで見受けられて最初の1行からグイと引き込まれること請け合い。

 

面白いミステリってこうでしょ!と言わんばかりよ。

 

イギリス名物身分の高いクソババアとかプライドが高く自分の力量に自惚れている感じがする女性とか、自分の過ちをある程度自分以外のせいにする人とか、盛りがついて理性を失った鼻息荒い小娘とか自意識の高い女性が多いのでこういう人たち苦手だわあ、まったくもって可愛げないわあと辟易しながら(うちのお母さんみたいなんだもの)コーンウォールという土地の魅力、登場する湖畔荘の魅力にはうっとりしていました。コーンウォール行ってみたい…ザ・ロスト・ガーデンズ・オブ・ヘリガン見てみたい*2

 

事件というものは当事者ひとりひとり、事件の一視点しか見ていないものだけど、それがこの物語を握る鍵なのかもなーと思いつつ、同時に信頼のできない語り手という技法もありそうでニヤニヤしています。おかんというものは話を盛るものだものな…都合の悪いことは見て見ぬふりするものだし。

 

翻訳は概ね作風にあっていて美しいのですが、ひとつだけ、気になったの。

 

上記のイギリス名物身分の高いクソババアの感情を描写するくだりに「ほっこりした」ってあってね…

ほっこりなんて最近出てきた言葉じゃないかと調べたら方言ではあるらしい(しかも否定的で意味合いも違う*3

広辞苑には入っているものの、いつから共通語として使われるようになったかわからんものを1930年代のおばあさんの感情表現に使うの?と、個人的に「ほっこり」って言葉がフレーメン反応起こすくらい嫌いだからそこだけ引っかかりました。

ほかにいい表現なかったのかしら。それとも原書でも現代風の言い回しで気持ちがあたたかになることを表現されていたのかしら。

 

そこだけ台無しよねーとブツクサ言いながら続きを読みまーす…たぶん今夜中に読み終わる…

 

2018/03/18 17:22

 いま読み終わりましたーポプテピピックに翻弄されていた…

湖畔荘〈下〉

湖畔荘〈下〉

 

 様々な視点から沸き起こる疑念、絞られていく容疑者、過去と現在の事件、全てが収まるところへ収まる過程が、多少ご都合主義じゃない?って思う部分も私が思ったちょっとあとくらいに同じ疑問を持つ人が現れ、一応はそれを払拭する説得力ある理由を提示され、じゃあ納得してやろうか…って部分があったり、そりゃーあまりにもどうなん?と思いながらもラスト近くからは涙が止まらず。

 

なんかね、上質なミステリなんだけど終わってしまうと人情もののお芝居を見ているような展開でした。こんなの見たことあるわ。

 

下巻は「ほっこり」が2箇所に出てきてその都度拒否反応が出たけれど、それは翻訳者様の言葉の選び方であって、作品の本質の瑕疵になるとはいえ…ない…と…思う…

 

2つの世界大戦とその前後の時代の雰囲気を濃厚に伝えるのも上手で、ひたれることが出来ました。あの頃のイギリス、大好きなのよね…ちょうど行きたかったので満足です。

 

そろそろリヴァトン館を読もうと思いますが、ミステリ読んだあとは大抵ちがうジャンルへ行きたくなるのですぐに読むとは限りません。

ケイト・モートンにハズレ無し。どこもダレることなく、ツッコミどころはあるけれど面白かったなあ。

 

読んでいたら、ケイト・サマースケイルの「最初の刑事」を思い出した。

時代背景は事件よりずっと昔だけど、事件が起こった家や家族構成、彼らが見たままの人間性ではないとかその辺とか。

 こっちは実話だし、感動の涙なんぞ流れませんが、読み物としても面白かったですよ。私は古沢先生からいただいたので単行本でもっておりやす。

最初の刑事: ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件

最初の刑事: ウィッチャー警部とロード・ヒル・ハウス殺人事件

 

 

 

リヴァトン館

リヴァトン館

 

 

*1:といっても私は「リヴァトン館」だけは惜しくて読んでいないんだけれど

*2:いまのところ出てきません

*3:

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