夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

シャーリイ・ジャクスン 「ずっとお城で暮らしてる」

 え、まだ読んでなかったの?とどこぞから言われそうだけどやっと読了。

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

 

あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。ほかの家族が殺されたこの屋敷で、姉のコニーと暮らしている…。悪意に満ちた外界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々。しかし従兄チャールズの来訪が、美しく病んだ世界に大きな変化をもたらそうとしていた。“魔女”と呼ばれた女流作家が、超自然的要素を排し、少女の視線から人間心理に潜む邪悪を描いた傑作。

 一度紛失して古書で書い直し、本屋で新本を見つけてさらに一冊買ってしまった。装画が綺麗でしょう。合田ノブヨさんの作品です。

しかし3冊も持っているのはどうかと思って、もともと買った方を親友にあげたら「さすがれーちゃんの選ぶ本はハズレがない」といたく気に入ってくれて、実はまだ読んでいないんですと言えないからわりと慌てて読んだ、という感じ。絶対おもしろいという確信はあったし、あげた時点で20ページは読んでいたけれど。

 

とても繊細で歪な世界で、大きな不幸を経た姉妹と伯父が住む大きな屋敷に来訪者が、という物語が動き出すまでの主人公のメリキャットの視点で見た外の世界が本当に不愉快で寒々しい。そんなものと対峙した彼女が時々心のなかで呟く「死んじゃえばいいのに」がまったく冗談に感じない。本気なんだけど。

以前、吉野朔実が本にまつわるコミックエッセイのどれかでこの作品を取り上げていて、あの美麗なイラストで彼女が「死ねばいいのに」と呟いているシーンを再現していたけれど、あれよりももっと憂鬱で純粋な怒りを感じた。

「死んじゃえばいいのに」という程度の感覚なら相手に抱いてもいいのでは、錯覚してしまうけれど、あんまりよくない呪文だと最近は感じている。

この作品でも魔法の呪文のようなもの、儀式のようなもの、夢想に導く詩のようなものが散りばめられているけれど、対峙しているのは生々しい現実で、そこから逃れるための手段になっている。それが美しくて子供の無邪気さもありつつ得体が知れない感じもあるのだけど、メリキャットを脅かす外敵の穢らわしさとどちらが嫌かとなると、それは人によるのかな。

善い行いをしようとしたり、罪悪感による贖罪もあるけれどそれが受ける相手にはどう映るかも読み手や語り手次第。

純粋すぎて歪になった少女(年齢的に少女かどうかもいまいちつかめない)の視点では語られるものの、彼女とその周りの人たちの描写をどう感じるかは読者任せという突き放した描き方に、読者の一人の私としてはラストの流れはそれでいいのだと思えた。

かなり心をざわつかせるお話ではあるけれど徹頭徹尾美しくて夢のような舞台であった。が、あそこへ行きたいかと訊かれたら私はいやだ。

 

今年はじめての読了本はこれにしようと決めて読んだのだけど、なんと言いましょうか…いま自分の状況が陰気な世界から逃れるためにもがいているところがあるので、そんなときに読むような本ではなかったかな。もっと明るくて清々しい本がよかったかも。

この作品を表現する言葉に「暗黒乙女小説」というのがありますが、まさしくそれ。

その言葉に惹かれるなら必読でしょう。

「くじ」といい、集団の無自覚な悪意にいやなところを引っ掻いてくる…

 

 

 

吉野朔実は本が大好き (吉野朔実劇場 ALL IN ONE)

吉野朔実は本が大好き (吉野朔実劇場 ALL IN ONE)

 

 吉野朔実が「ずっとお城で暮らしてる」を取り上げたコミックエッセイはこちらに所収。私はもともと分冊で発売された本で読んだので探さないと特定できないので合本版を挙げておきます。たぶん「本を読む兄、読まぬ兄」かなあ、そんなに前じゃなかった。

くじ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

くじ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 これの表題作は人生のうちに一度は読んだらいいよ!