夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

クリストファー・プリースト 「魔法」

魔法 (ハヤカワ文庫FT)

魔法 (ハヤカワ文庫FT)

爆弾テロに巻きこまれ、記憶を失った報道カメラマンのグレイ。彼のもとへ、かつての恋人を名乗るスーザンが訪ねてきた。彼女との再会をきっかけに、グレイは徐々に記憶を取り戻したかに思われたのだが…南仏とイギリスを舞台に展開するラブ・ストーリーは、穏やかな幕開けから一転、読者の眼前にめくるめく驚愕の異世界を現出させる!奇才プリーストが語り(=騙り)の技巧を遺憾なく発揮して描いた珠玉の幻想小説

出版当時に購入。先に「奇術師」を読もうと思っていて、あるトラブルにより挫折したままプリーストは短編を拾い読みだけしていた。

このお話はちょっととんでもないので自分だけではおさまりがつかず、相棒の読了を待って簡単に読書会を開きました。相棒は読んでいる間じゅう、面白い表情をしていました。

相棒「騙りというだけになにか仕掛けがあって騙してくるんだろうな、っていうのはわかるんだよ。で、身構えて読もうとしているんだけど、旅の光景がよかったり、よくありそうな出会いからの恋愛からつい入り混んで行ったらこの相手はどうしてこう、シンプルそうな問題をややこしく抱えているんだ?ってちょっとイライラしてきて騙されることへの緊張感からそらされる」

私「嘘がこじれたようなものいいをするんだよね、隠し事をあからさまにしている、なんだよ俺たち愛し合ってるんじゃないのかよという、主人公の男性の思うようにいかないことへのじれったさに私が面倒臭くなってくる。もう一人の男がさらに面倒臭いし、隠し事が尋常じゃないからこじれるのもわかる気はするけれど、もう、面倒くさい」

相棒「セックス描写が多くなってくるけどあんまりくどくないし不要な感じがしないからサラッと読めるんだよね、気持ち悪いけど。この辺でも騙されている感じから気をそらされる」

私「あれは気持ち悪かった。そこを読んでいるらしいときのあなたの顔が面白かった。あのラストはどう思う?」

相棒「どんなお話にも使える手で、使っちゃいけない手でもある…ジョジョの6部のラストみたいな…もうちょっとクリアな、ああそうかあって気持ちの良い騙された感じが良かったかも」

私「邪推だろうけど、いろいろお話で遊んでいるうちに落とし方に迷ってこうなりました、って気がするんだよね」

相棒「そう思った方が読者的には幸せかもしれないけれど、なんだかすごい作家が読者を騙しにきているんだからもっと大それた感じも見えなくもない。ずるいよね」

私「ずるいよね」

こんな感じでまとまりました。面白いし、最後まで読むことによって得られる心の持ち方は、それこそ読書の醍醐味。なにしろ自分では想像もつかないことだもの。読後感は他では得られない。すごい作品でした。
騙りといえばエリック・マコーマックの「パラダイス・モーテル」のイメージが強いけど騙り方は…おっとそこまでだ。