夜は終わらない

複雑に入り組んだ現代社会とは没交渉

コニー・ウィリス 「わが愛しき娘たちよ」

わが愛しき娘たちよ (ハヤカワ文庫SF)

わが愛しき娘たちよ (ハヤカワ文庫SF)

この作品集に大好きなオックスフォード大学史学部のシリーズの作品があるとのことで、近々「オール・クリア2」が発売されて「ブラックアウト」からの3冊を一気読みしてやろうと目論んでいるのでそれ以外で唯一読んでいないこちらもさらった。
一番始めに載っている「見張り」がそれで、翻訳者はちがうので細かい表記に違いはあるけど面白さが違うというわけではない。
「見張り」
お話は21世紀半ばのオックスフォード大学で、時間旅行が可能になり、研修などで学生を送り込めるようになって各話でそれぞれの学生たちが14世紀、19世紀、第二次世界大戦中に飛び込むのが始まり。今回読んだものは第二次世界大戦中のセントポール大聖堂が舞台。14世紀から帰ってきたキヴリン(ドゥームズデイ・ブックの主人公)の様子が少しおかしいのが頭にひっかかりなりながらも飛び込んだ先であらゆる疑心暗鬼や、未来からきたことでの過去の人々(あるいは動物)への感傷に心を動かすという内容。日記形式で語られ、この作品の見ならずコニー・ウィリスの作品によくある「忙しすぎてフラフラ」の感じもある。過去を旅する時間SFの焦燥感や感傷が徐々に募ってまさかそこまでくるとは思わなかったのでラストには胸が熱くなった。このシリーズはやっぱり大好き。
ブラックアウト (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ブラックアウト (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

オール・クリア 1(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

オール・クリア 1(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

オール・クリア2 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

オール・クリア2 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

一番好きなのは「犬は勘定に入れません」。コニー・ウィリスの作品で一番好き。読み終わって作者をハグしたいと思ったものだった。

「埋葬式」
なにでそういう着想を得たかというまえがき付き。だからさらに想像力が膨らむ。
怪奇小説風で不気味さが漂う。ラストがうまい途切れ具合で唸ってしまった。

「失われ、見出されしもの」
ヨハネの黙示録を引用したというお話なので、聖書の知識がないと印象が違うんだろうな。なんらかの暗喩なのはじわじわ感じる不気味な世界観なのだけど、深い意味がわかりづらいからそこまで。終末はひっそり来るとかなんとか。陰謀が渦巻いているようで、登場人物はそこからかけ離れたごくわずかな人たち。ラストまで淡々として空寒い感じがする。

「わが愛しき娘たちよ」
表題作。前書きのブラウニングの奥さんとその実家のエピソードが怖い。親の支配欲とそのわりには無責任というのは、親が自己中だからに尽きる。つくづく、親なんてものは全然完璧な人物ではないんだな。
お話はティーンの語りで展開されるけれど、これが言葉がきたなくてアホっぽいけど途中から愛おしくなる不思議。代替品としてのペットを保護したい考えと身を守るためにペットを使うのとどちらが健全かなと思ったりもしたけど、たぶん主人公があの父親の元にいたらうまいこと逃げていたような気がする。設定からもいろいろな暗喩的表現からも、悪い夢を見ているようなお話だった。